全員揃ったところで田ノ浦さんを先頭にデッキに向かう。


そこには俺たちの登場を待つ沢山の記者たちの背中と、一人こちら側を向いてマイクを手に立つ男性の姿があった。
 

 

「司会者から開始の合図が出たら、あそこまで歩いて行ってね」
 

 

記者たちの死角になる場所まで先導してくれた田ノ浦さんに指示を出され、呼ばれるまでじっと待機する。
 

 

何度か横目でこちらの様子を窺っていた男性と田ノ浦さんがアイコンタクトを取り、準備が整った事を確認すると軽く頷き、マイクを握り直した。
 

 

「・・・皆様、大変長らくお待たせ致しました。これより『嵐』の入場となります」
 

 

司会に合わせ案内された場所まで、智くんを先頭に、潤、『相葉雅紀』、カズ、殿に俺、の順で歩いて行く。
 

斉に全員の視線が注がれ、注目の的となって全身が総毛立つ。
 

俺たちの姿を確認して何か言っているのが分かった。

 

この船に乗り替えてデッキに上がって来てから、モゾモゾゴソゴソ立ち位置を微調整している間もずっと誰かの話し声がしていた。
 

ボソボソ声だから全部は聞こえなかったけど。
 

ぶっちゃけ、いい気はしなかった。
 

 

俺たちは俺たちで大勢のマスコミを前になかなか顔を上げることが出来ず、俯いていた。
 

 

「『嵐』の皆さん、準備の方は宜しいでしょうか。宜しければお顔を上にお願いします」


「あっ、ハイ」
 

 

落ち着いた男性の声で俺たちが顔を上げるのを確認すると、男性はゆっくり頷いて正面を見た。
 

 

「それではこれより、ジャニーズ事務所に所属となります新グループ『嵐』の発表記者会見を執り行います。本日司会進行は私、壮口陽尚が務めさせて頂きます。宜しくお願い致します」
 

 

まずは司会者による大まかなグループの成り立ちの説明の後、それぞれ自己紹介があり、そこからは事前に何度も練習を重ねた質疑応答が始まった。
 

 

「グループ名、『嵐』の由来は?相葉くん」

 

「・・・日本では、『あ・い・う・え・お』ってあいうえお順じゃないですか。で・・・、外国ではABC、D、E、で・・・もう。とにかく1番と言うことで、・・・『A』から始まったり、『あ』から始まったりと言うことで、まあとにかく頂上に立ちたいと言うことで『嵐』、という風になりました」
 

 

『相葉雅紀』は与えられた使命を果たした!と言う達成感を得ていたようだった。
 

まあ、あれだけ特訓させられてりゃそうもなるだろう。

 

 

だけど隣にいた潤が、一瞬、あれ?という顔をした。
 

 

「なるほど・・・。更にやっぱり『嵐を巻き起こしたい』という意味もあったりとかするんですか?」
 

「はい。そうですね」
 

 

更に続く質問に、『相葉雅紀』は気が抜けた顔をしながら軽く頷いていた。
 

 

カズは船酔いをひた隠しながら無難に質疑応答をクリアし、俺に用意された質問は『嵐の中での個人の役割』についてだったので、用意しておいた答えを出す。
 

 

「櫻井くんはどうですか」
 

「学校とうまく両立してやってきたんで、これからもやっていきたいです」
 

「なるほど」
 

「将来の目標をじゃあ一人ずつ教えてもらっていいですか?」
 

「この、冬に高校を卒業するんで、また、その後大学へ進んで、学業の方とうまく両立していきたいと思います」
 

 

やっぱさすがにちょっと緊張して目線を安定させられなかったりもしたけど、後は割とうまく出来たんじゃないかと思う。
 

 

「リーダーは大野くん、誰なんですか?」
 

「リーダーって言うリーダーはいないです」
 

 

智くんがそう言うと記者の人たちからドッと笑いが起きた。
 

そして智くんが自分をダンスリーダーだと言ったところでイレギュラーが起こった。
 

 

「あ、ダンスリーダーとして。一人一人あるんですか?」
 

「あぁ、ありますね、まぁ」
 

「例えば松潤君は?」
 

 

智くん一人の質問で終わるはずだったところを、突然潤にも話題を振られ予想外の事に驚き狼狽えながらも何とか答えを捻り出した結果、何故か全員が役職を尋ねられるということになった。
 

練習中に何度も社長から絶対に右に倣えの答えは言うなと釘をさされ、その場で自分たちで一所懸命考えた。
 

 

予め決まっていたグループの名前の由来や、どういったグループなのか、誰がリーダーなのか、今後のことなどについては、たどたどしくはあったけれどもみんなそれなりに答えることが出来たと俺たちの中では上出来に思えた。