俺は白日夢でも見たのだろうか。
一瞬、自分が海の上にいることを忘れるような、そんな景色だった。
急激な視界の変化についていけず、一度ギュッと目を瞑ってもう一度開き、四人が一斉に船の方へ大きく手を振るのに少し遅れて自分も加わる。スタッフ側からも手が振られ、カズも船酔いと闘いながら懸命に手を振り返す。
次にヘリからも合図が出され、今度はそちらに向け手を振る。ヘリ越しの太陽が眩しくて手を庇代わりにして日陰を作る。
しばらく撮影が行われ、ヘリが高度をあげて離れていくとスタッフを乗せた船が近づいてきて、拡声器で撮影終了が告げられた。
そしてクルーザーは再び速度を落としゆったりとした航行に変わった。
「はあぁぁぁ、お、終わったぁー」
誰ともなく呟いた一言に、一斉にずるずるとその場に崩れ落ちて行った。
「めっちゃくちゃ緊張したー」
「ちゃんと笑えてたかなあ」
「やべぇ。俺、顔固まってたかも」
「・・・もう帰りたい」
「俺も帰りてー」
思い思いに口に出した言葉がどれもネガティブで思わず吹き出す。誰もこの状況を楽しめてねえ。
だけどもう後戻りは出来ない。
この後マスコミの人たちを乗せた船が来ると言うのに、既に疲れてるし帰りたいとか言う奴もいるし、どんだけ後ろ向きなグループなんだろう俺たちって。
デビューなんだよ?本来ならもっとキラキラしてて、華やかで、期待とか希望とか野望に満ち溢れてる前向きな若者たちがいるはずなのに、それなのに・・・。
「・・・ふはっ」
駄目だ。
目の前の四人は到底そんな風には見えねえ。
みんな小動物みてえに怯えてるようにしか見えなくて、だけどなんでかな、どこかでみんながいることにホッとしてる自分がいる。
不思議なことに、『相葉雅紀』も含めて。
「みんな」がいることに安心してんだ。
「嵐」という船はこの五人を乗せて航海に出るんだな。と漠然と思った矢先、これまでにないぐらい船が激しく揺れた。
「わああっ」
気がつけば、すぐ近くまででっけぇ客船が迫って来てた。
記者たちを乗せた船は俺たちが今まで乗ってたクルーザーの比ではなかった。
おもわずポカンと開いた口が塞がらなかった。
「・・・す、すげぇな」
「今度はこの船に乗んの?これで会見するってこと?」
「もうこれ壁じゃん・・・」
余りの迫力に圧倒されまくる俺たちをよそにスタッフたちが梯子を使って船を上っていく姿が見えた。
「・・・え。あれに上っていくの?俺ら」
船についてるタラップに乗るためにはクルーザーからでは高さが足りず、縄梯子を使ってそこまで行かなきゃいけないとか嘘だろ?!
だって結構な高さだぞ?
落ちたら大怪我とかいうレベルじゃないと思うんだけど・・・、何より縄梯子、結構揺れてるんですけど!足場の不安定さったらないんですけど!!言っとくけど、俺は高所恐怖症なんだよ。
怖えよ!!
上りたくねえと心底思ったけど、顔色の悪いカズでさえ黙々と上っていく姿を見たら何も言えず、涙目になりながらなんとか上って行った。
「翔ちゃん、大丈夫?」
上からずっと見守ってくれてたカズが、心配そうに顔を覗きこんで来た。
「・・・おう」
手も膝もガクガク震えてて我ながら格好悪いとは思うけど、虚勢を張ってニッと笑い親指を立てて答えた。