後部デッキでは今にも泣きそうな顔をした女性スタッフが一人待ち構えていた。
「あっ!!来たっ!早く早くっ!!」
慌てふためく様子のスタッフに『相葉雅紀』が申し訳なさそうに、衣装を置いてきたと告げると、今しがた俺たちが上がってきた階段を駆け下りてすごい勢いで戻って来た。
「衣装、ハイッ!すぐこれに着替えてっ」
そう言った彼女の手には、何故か衣装が左右に一着ずつ握られていた。そして片方を俺に差し出してきた。
「えっ、いや、俺は・・・」
着替えの必要はないと断ろうとしたら、何でもいいから早くしてえええええーーーーっ!と叫びながら涙目で襲い掛かってきた。
無理矢理着ていたものを脱がされ、新しい衣装を首だけ通して放置され、『相葉雅紀』にも新しい衣装を頭から被せて腕を通させている。
「おいっ!準備まだか!?早くしろっ!時間ないんだぞっ!!」
「ああああああっ。はいいーーっ!!すみませんっ!すぐっ!すぐ行きますっ!ほらっ二人とも急いでえええー」
上部デッキから怒鳴り声がして、竦みあがったスタッフがペコペコと頭を下げ、俺と『相葉雅紀』を階段の方へ追い立てる。
逆らえない雰囲気にもそもそと大人しく腕を通している最中に上部デッキに向かわされ、階段で脛をぶつけながらなんとか登り切った先の三人が待つ場所に辿り着いた。
「遅い!!たかが着替えにいつまでかかってんだ!」
「ひっ・・・。ご、ごめんなさい」
「すいませんでしたっ」
上に着いてから一発目に怒鳴られ、二人で反射的に頭を下げた。
「さっさと位置について。時間押してるから10分は巻かないと間に合わないぞ!!空撮本番用意っ」
「はい!」
怒鳴るような言い方なのに、スタッフたちはビビる様子もなく当たり前のように返事をする。
用意出来たらカメラにキュー出してと若いスタッフに指示を出し、俺たち五人とを残して他のスタッフはみんな下りて行った。
「じゃあみんな自分の立ち位置覚えてるかな?そこでしばらくポーズ取って下さい。それから、こっちの船で合図を送るので、その時は船の方を見て手を振ったりアクション取ってください。その後、ヘリの方にもカメラがあるのでそっちを見るように合図が出たら同じように手を振ったり何らかのアクション取ってください。出来れば笑顔で」
「はい」
スタッフが手振りでクルーザーに並走している船を指し、五人が同じ方向を見る。
ヘリを指せば同じようにそっちを見て確認する。
その度にそこにいるスタッフ達が大きく手を振ってくれるので俺たちも振り返す。
みんなで緊張をほぐそうとしてくれているのが分かる。
「二宮くんは、・・・大丈夫かな?」
クルーザーの縁に寄りかかっていたカズも着替えさせてもらったみたいで衣装が変わっていた。
「ああ・・・。ハイ。たぶん」
「もしまた気分悪くなったら、そのまま海上に吐いちゃって。じゃあ僕が降りたらキュー出すので合図が出るまではまっすぐ前を見ていてね」
そう言ってトランシーバーを使ってどこかと交信して、最後のスタッフが上部デッキからいなくなり、俺たち五人だけになった。