『相葉雅紀』の居場所は探すまでもなかった。
 

 

階段を下りてすぐ。
 

 

室内を凝視することに集中していて、こちらの存在など一切眼中にない。
 

 

その姿を目にした途端危うく声を荒げそうになるが、どうにか諫めた。
 

 

だけどそいつがふらりと部屋の中へ踏み込もうとするのを見たら、一度は腹ん中に収めた怒りが爆発した。
 

 

一気に間合いを詰めてそいつのもとへ行き、その勢いのまま左肩を押して体を捻らせる。
 

 

「わっ!なに・・・、っひ!?」
 

 

勢いよく背中を扉にぶつけたそいつが俺の顔を見た途端、顔をひきつらせた。
 

 

「アンタここで何してる」
 

 

地を這うような低い声。
 

胸ぐらをつかみ、額と額、鼻と鼻がぶつかるぐらいの至近距離で睨みつける。
 

 

「な、なにって、み、見張りを・・・」
 

「見張り?なんの?」
 

 

俺の殺気立った様子に完全に怯え、しどろもどろになりながら訳の分からない言い訳をする。
 

 

 

ホテルから移動している間中ほぼ会話ゼロな俺たちだったけど、他に誰もスタッフがいない今のうちだと思ったから、港を出る前に牽制しておいた。
 

 

『あんたさあ、何しにここに来てんの?仕事しに来てんじゃねーの?商品に手ェつけていいと思ってる?いい大人が分別ぐらいつけろよ。二度と相葉にちょっかいかけんな』
 

 

その言葉に対して何も言い返してくることはなく、早朝から他のスタッフ達と共に働く姿を見て、少なからず仕事に対する姿勢は改めたのかと一瞬でも考えた俺が浅はかだった。
 

 

二度目はないと警告したにもかかわらず、この騒ぎに乗じて接触すれば気づかれないとでも思ったのか。
 

 

「俺マリーナでアンタに忠告したよな。次はねぇって。次コイツに近寄ったら上に報告するって言っただろ。なのになんでここにいんの」
 

 

両手に更に力を入れてギリギリと締め上げていく。
 

 

「・・・いっ、いや。これは、そのっ、あ、相葉くんが!一緒に来てと言うので、俺はそんなつもりじゃ・・・っ」
 

 

苦痛に顔を歪めて必死に俺の手首を上から掴んでくる。
 

 

そんな訳ないと思いつつも『相葉雅紀』の名前が出たことで確認の為俺が視線を送ると、それまで部屋の奥でポカンとした顔で一部始終を見ていた半裸の『相葉雅紀』が、ハッとして大きく手と首を横に振った。
 

 

『相葉雅紀』は、脱いだ服で体を隠すようにしていた。
 

 

「おまえ・・・っ」
 

 

その場しのぎの見え透いた嘘をついたことより、そこに『相葉雅紀』を巻き込んだことが許せなかった。