「うわっ。な、なに・・・?」
 

 

遠くからプロペラの音が聞こえてきて見上げると、あっと言う間に一台のヘリが船の頭上をかすめて行った。


撮影クルーを乗せたヘリも最終確認作業をしているらしい。
 

 

クルーザーに並走するように飛行するヘリからの風圧で水面が激しく波立ち、クルーザーが右へ左へ木の葉のように揺れる。
 

 

「うわうわうわっ」
 

 

みんな近くにある手摺りや壁につかまって激しい揺れに耐える。
 

その様子を確認しながらなのか、ヘリが少しずつ距離を取って離れていく。
 

 

だんだん波も落ち着いて行き、揺れも治まった頃、後ろの方が騒がしくなった。
 

 

「カズっ!?」
 

 

慌てた声に振り返ると、『相葉雅紀』の隣で真っ青な顔をしたカズがいた。
 

 

「カズっ!ここに吐いて!」


「まーくんの手、汚れ・・・から」


 

カズは首を横に振ってる。
 

 

近寄って見れば、両手をお椀のような形にして『相葉雅紀』が叫んでる。
 

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?いいから、吐けって!!」
 

「ぃやだよ。んな高そうな船汚しちゃったら、クリーニング代・・・払えないじゃん」
 

 

吐け。嫌だ。の問答をしているうちに、また船が大きく揺れた。
 

 

 

その瞬間。
 

 

「・・・っ!!」
 

 

遂に胃からせりあがってきたものがカズの喉元まで一気に逆流してきた。
 

それを頬を膨らませどうにか口の中に溜めた。
 

目を見開いてぶるぶる震えながら吐き出すまいと必死に我慢している。
 

 

「飲むなっ!!」
 

 

それに気づいた『相葉雅紀』が今まで聞いたこともないような大声を出した。
 

スタッフを始めその声に驚いたみんなが『相葉雅紀』とカズを見る。
 

カズは涙目で口を押さえて限界とばかりにガタガタ震えたかと思うと、遂に口の端から吐いたものが溢れた。
 

それとほぼ同時に『相葉雅紀』がカズを自分の方へ引き寄せた。
 

 

「なんだ!?どうした?」
 

「え?!誰?二宮くん!?」
 

「吐いちゃった!?」
 

「誰かー!袋持って来て!!」
 

 

現場は騒然としたが、『相葉雅紀』はその間もカズを離さなかった。
 

 

「袋持って来ました!」
 

「二宮くん、少しだけ口離せるかな。こっちの袋持とうか」
 

 

スタッフが袋を持って来ると、別のスタッフがカズに声をかけて『相葉雅紀』と交代した。
 

 

「相葉くんはとりあえず着替えてこようか」
 

「あ・・・、ご、ごめんなさい。オレ、慌てちゃって。船汚しちゃいけないと思って・・・」
 

「うんうん。仕方ないことだけど、次から気をつけてね。おーい、誰か手が空いてる人、着替え付いてあげてー」
 

 

『相葉雅紀』は、咄嗟の判断でカズの吐瀉物を自分が着ていた衣装で受け止めていた。
 

 

胸元からドロドロに汚れ、裾を折ってポケット状にしてそれを零さぬよう防いでいる。
 

 

「まーくん。ごめ・・・」
 

「いいよ。大丈夫だから。こっちこそ怒鳴ってごめん」
 

 

スタッフに背中をさすられながらカズが謝れば、何故か『相葉雅紀』も謝って。
 

 

「あ。呼ばれたみたい。行ってくんね」
 

 

誰かの声が聞こえて、『相葉雅紀』はまた船内に戻って行った。