ナイトウエディングということもあって、昼間と比べると照明の明るさやテーブルコーディネートがしっとりと落ち着いた雰囲気に纏められていて、会場全体が大人っぽい雰囲気を漂わせる。

 


披露宴前半のウエディングケーキ入刀やファーストバイトも事無きを得て、お色直しも済ませた後半のキャンドルタワーの演出のため、一度は明るくなった室内の照明が再び落とされた。
 

 

薄暗い中、選ばれた参加者と共にキャンドルタワーの小さなキャンドルへ点火している最中、出入り口の方から明かりが漏れたのが目の端に見てとれた。
 

 

静かに視線だけ移すと、すぐに明かりが消えて人の出入りがあったのだという事が分かったので、タワーの方へ戻そうとした時。
 

 

暗がりにも関わらず僕の目は一点に奪われたままになった。
 

 

 

 

 

扉の側にいたスタッフに話しかけているそのシルエット。
 

 

 

 

 

顔なんて見えなくても、僕には判る。
 

 

 

 

 

危うくその名を声にしそうになって押し留めれば、ひゅっと喉が鳴った。
 

 

 

 

言いたい事ならいくらでもある。
 

 

腹の中にある怒りを全部ぶちまけてやりたい。
 

 

 

 

今すぐあの場所に向かって駆け出したいと思った。
 

 

その胸に飛び込んで、いつもみたいに抱きしめられたかった。
 

 

 

 

 

だけど今、僕は正に仕事の真っ最中で、そんなことが許されるはずもないのは分かっている。
 

 

一言でも発すれば、僕の中にある渦を巻いている全ての感情が一気に噴き出すだろう。
 

 

怒りも悲しみも、喜びも、全てが涙となって間違いなく爆発する。
 

 

泣きながら、責め立てて、好きだって叫んで、姿を見ただけでこんなにも浮かれる自分を嫌になって、キスが欲しくて願うんだ。
 

 

 

 

 

自分でも感情の振り幅に追いつけなくて、困惑する。痛くて、苦しくて、泣きたくなる。嬉しくて、喜びで、泣きたくなる。
 

 

 

 

だから、僕は気づかない振りをした。
 

 

 

 

ドアが開いたのは気のせい。そこには誰もいない。イライラすることも、めそめそすることもない。何もない。目の前のことしか僕のすべきことはない。
 

 

 

 

 

仕事に集中して何ごともなかったかのように振舞うことで気持ちを誤魔化すしかできなかった。