暫くして別のスタッフが僕を迎えに来たので衣装を着替えに部屋を出た。


その途中で、どこかからワッと賑やかな声が聞こえ、廊下の窓越しに下からカラフルな風船がいくつも上がって来るのが見えた。

 

ガーデンウエディングの会場の演出だろうか。

 

 


今回のブライダルフェアの目玉は、時間をずらして何度も行われる模擬挙式と模擬披露宴。


通常の模擬挙式と披露宴だと土日で一日二回、大きめのフェアで午前と午後に二回ずつのところが多い。


それが今日は常にどこかの会場で模擬挙式か模擬披露宴が行われるスケジュールになっている。


色んなパターンの挙式と披露宴をこのホテルだけで一日で見学することが出来るって結構珍しいと思う。


明日は二回ずつに戻るけど、初日の今日は演出も多いし式場やホテルのはしごをせずとも見どころはたくさんあって、デートがてら見学に来るカップルも、会場見学が初めてのカップルも、契約済のカップルも色んなお客様が今後の参考になるだろう。

 

 


出番が多いと言うことは自分の空き時間が少ないと言うこと。

次の僕の出演は1時間半後の衣装発表会だけど、30分前の集合だから空いているのは実質1時間。
その間にしょーちゃんを探さないといけない。

 


急いで衣装を脱いで、入れそうな会場から見て回る。時々見知ったスタッフを見かける度にしょーちゃんの行方を尋ねるけど、挙式中や披露宴中の会場にいて入れなかったり、会えないまま最初のタイムアップを迎えた。

 


その後も合間を縫って何度もトライしてみたり、仕事中でも会場にいないか視線を巡らせてみたりしたけれど、結局見つける事が出来ないまま最後の披露宴の時間になってしまった。

 


ここまで何度かお互いフリーになっている時間があるはずなのに、全く姿を見ないのはどう考えてもおかしい。


スタッフからさっきまではいたという答えもあった。

 


考えてみれば、しょーちゃんはこのフェアのタイムスケジュールを全部把握している。
僕の出演時間帯は向こうには筒抜けだけど、僕はしょーちゃんの予定を知ることが出来ない分、僕の方が不利な事が分かった。


 

避けてるとしか思えないしょーちゃんの動きに、ジリジリと焦りが生じ始めた頃、大野さんや二宮さんを見かけた。


お互い仕事中ということもあり、気安く声を掛け合う事は出来なかったけど、2人の視線が僕を見守ってくれているのが分かり、言葉はなくてもそれだけで十分僕の心は落ち着く事が出来た。

 

 


そうしてしょーちゃんに会えないまま迎えた最後の披露宴での演出は、まず高砂席の前にロールスクリーンを下ろし、照明を落とす。


オープニングムービーと呼ばれる僕と新婦の誕生から結婚に至るまでの写真を時系列に並べて流して行き、挙式をした体での写真を即席で撮ってそこに入れ込む。


そしてこの会場に入る前にカップルごとの写真を撮ってそれもこのムービーに取り込んで流れると、スクリーンにその人たちが映る度に少し弾んだように囁く声が聞こえてくる。


その間に僕たちが高砂席に移動して、全員分が流れたところでスクリーンから写真が消えて文字が映し出され、後から僕たちの姿が影絵のように写り込むのに出席者たちが気付いたところでスクリーンを上げれば、さっきの写真で着ていた衣装を身に着けた僕らが登場する。


大きな拍手で迎えられた僕たちがぺこりと頭を下げて無事にオープニングを迎えられ、ホッとして新婦役のモデルと笑い合った。