「相葉くん?

!あ、っああ、あの、おはようございます」

 

 

しょーちゃんの声で我に返り、急いで頭を下げる。

 

 

「相葉さん、長い間お疲れさまでした。今日はお忙しいと思いましたので今の内にご挨拶させていただきたくて」

「あ…、わざわざその為に?そんな、良かったのに…」

「いえ。もう一度ご一緒できる日が来た時にお伝えしようと思っていたのですが、実は…私もうモデルのお仕事を辞めてしまいまして、その夢も叶えることが出来なくなってしまいましたので、今日が相葉さんの最後のお仕事と伺ってどうしてもお礼が言いたくて櫻井さんに無理を言ったんです」

 

 

そう言ってしょーちゃんの方を見て笑うマリエさんに、同じようにしょーちゃんも見つめ合って微笑んだ。

 

 

仲睦まじい様子を見せつけられたような気がして胸が痛くなった。

 

 

「私がモデルデビューの日に、相葉さんに助けていただいたこと、とても感謝しています。短い期間でしたが、私がモデルとしてお仕事を続けることができたのは相葉さんのおかげでした。事務所を移籍されても相葉さんがモデルとして活躍されること、楽しみにしています」

 

 

言い終えると手にしていた花束を僕に差し出した。

 

 

「あ、ありがとう…。僕、こんなことして頂けるようなほどの事はしてないのに、却って申し訳ないな。…でも嬉しいな。本当にありがとう」

 

 

たった一度きりのことをこんなに感謝されるなんて思ってもみなくて、嬉しいような申し訳ないような複雑な気持ちになった。

 

 

 

僕は、しょーちゃんに助けてもらったことが嬉しかったから、自分も何かあった時には手を差し伸べられる人になりたいと思っていた。だから誰かの役に立てたことは嬉しかった。

 

まさかそれがマリエさんになるとは思わなかったけど。

 

 

あんな些細な事を忘れずに感謝してくれてこうして出向いてくれて、マリエさんの人柄の良さが溢れてるように感じた。

 

 

…きっと、マリエさんのこういうところなんだろうな。

 

 

しょーちゃんがこの人を生涯の伴侶として決めた理由は。

 

 

彼女にとって僕は目障りな存在だろうに、それをおくびにも出さずに微笑みを絶やさない。

 

 

 

しょーちゃん言ってたもんね。

 

 

僕みたいにパニック起こさないし、ヒステリックにもならない、って。

 

 

僕らの関係も続けていいって言う懐の広い人だって。

 

 

小さくて、可愛くて、気が利いて、芯が強くて、自分の子供を産んでくれる。こんなに非の打ち所がない女性に僕が敵う訳がなかったんだ。

 

 

最初から勝負にならないんじゃん…。

 

 

 

しょーちゃんに会って潤った僕の心が一気に渇いていく中、表面上はなんとかみんなとの会話に置いていかれないようにするのがやっとだった。