「なー相葉ちゃん、今日の翔くん見てどう思う?

「え…」

 

 

そう言われて下げていた頭を戻して改めて隣に立つ人の姿をじっくりと見た。

 

 

「相葉くんに聞くまでもなくどう考えてもやりすぎでしょ。逆に目立つわ」

「えー。そうかな、割と俺は気に入ってるんだけど」

「正気か、おまえ。いっぺん鏡見ろ」

 

 

しょーちゃんの独特のセンスと二宮さんの辛口なやりとりはいつも通りで。

そんな2人を見てニコニコしてる大野さんもいつも通り。

 

しょーちゃんのスーツ姿は見慣れたものだけど見慣れないのは、黒縁眼鏡に整髪料をべったりつけてテカテカのぺたんこの82ぐらいの横分けの髪型。

 

僕の目にも二宮さんの言うように確かにやりすぎなように映る。

 

 

「…ふ、ふはっ」

 

 

我慢出来なくて、思わず吹き出してしまった。

 

 

「そんなに変かなぁ…?

 

 

そんな僕を見て不満そうに口を尖らす。

 

 

「だけどマジな話、こっちの方が上からのウケはいいんだって」

「時代錯誤のオッサンたちにしてみればそういうのが真面目に見えんのかねぇ」

 

 

わざとらしくクイクイっとフレームの右端の方を揃えた指で上下させるとみんなが笑う。

 

「なんか帳簿とかつけて経理にいそう」だとか、「役所の人みたいに腕に黒いカバーつけてそう」だとか、『真面目な人』というイメージだけで勝手に話して、「ペットは亀」だとか、「実は表と裏の顔がある」とかどんどん暴走し始めてその度に「ありそう、ありそう」と笑いが起こる。

 

 

こうやって4人で談笑しているとまるで以前に戻ったようで、あれほど不安だったしょーちゃんを前にしても自然と笑えて話せているのが嬉しかったし、安心でもあった。

 

 

 

 

「あ。ちょっとごめん」

 

 

そんな風に感慨に浸っていたところに、突然しょーちゃんが動く。

 

視線が僕を追い越し、更に奥へ。

 

僕の肩をぽんと叩いて人混みを掻き分けるようにしてしょーちゃんは、さっき僕が入って来たのとは別の入口の方へ向かって行った。

 

しょーちゃんが触れた肩に自分の手を重ね、遠ざかっていく姿を追った。ドアの前に背中が見える。誰かと話しているみたい。

 

しょーちゃんが振り向いた瞬間、小さな体が見えた。

 

そのまま肩を抱くようにエスコートしてこっちに戻って来る。

 

 

「おはようございます」

「おはようございます」

「おはようございます」

「………」

 

 

消え入りそうなか細い挨拶に二宮さんと大野さんは大人な対応でにこやかに挨拶を返した。

 

 

なんで?

 

 

マリエさんがどうして?

 

 

僕の頭の中はハテナで埋め尽くされた。