風呂からあがり、各場所の戸締りの確認をして最後にリビングの電気を消して寝室に行く。
ベッドの奥寄りの真ん中にこちらに背を向けて眠る雅紀と壁際に朱理の手が見えた。
起こさないように静かにベッドに入って、二人の眠る姿を見ていた。
当たり前のようにここにある日常に感謝して、寄り添うように眠る二人の額に吸い寄せられるようにキスをした。
「…ん…」
寝返りを打ち仰向けになった雅紀の唇にもキスをした。
「…くふっ」
目を閉じたまま笑った雅紀を見ているだけで幸せな気持ちで充たされる。
こんな幸せな気持ちで誕生日を迎えられて、幸せに充たされながら眠れる自分は恐らく世界一幸せな人間だろうと思いながら眠りに就いた。
「しょーちゃーん。朝ですよー。起きてー」
威勢のいい雅紀の声に起こされて、起き上がってしばらくボーッとしてからリビングへ。
キッチンからは甘くて香ばしいにおいがプンプンしてくる。
ああ、そう言えば今朝はフレンチトースト作ってくれるって言ってたっけ。
リビングを見渡すと微かな違和感。
小ぶりなテーブルと向かい合わせの二脚の椅子は二人で選んだお気に入り。
…あり?うちのテーブルこんな小っちゃかったっけ?ベビーチェアは?
転倒した時に痛くないように敷いたマットは?侵入防止のゲートは?
「どしたの?しょーちゃん?」
カチャカチャとカトラリーをセットしたり、出来上がったフレンチトーストの載った皿を運びながら、呆けている俺に気付いた雅紀が声をかける。
「しょーちゃん。誕生日おめでとう」
準備が出来ても席に着かない俺を迎えに来た雅紀に抱きつかれる。
「…あー」
どこからが夢でどこからが現実なのか、戸惑ったけどどうやらこっちが現実らしい。
それを証明するものは何もないんだけど、なぜかそう思った。
何もないってのは変か。物証としてはないってだけ。
いつだったか、雅紀が夢で見たと教えてくれたことがあってその時の子供の名前が確か朱理だった。
そうか。
あれは未来の君がくれたバースデープレゼントだったのかな。
目を閉じて温かい雅紀の体温を感じながら抱き返す。
「わ」
驚いたような声につられて目を開けて、雅紀の視線の方向を見る。
「雪だ。今年は暖冬だから降んないかと思ってたけど。ヤバッ。洗濯物入れないと。ごめんしょーちゃんちょっとだけ待ってて」
慌てて俺の腕の中から抜け出した雅紀がバタバタとベランダに出て、干していた洗濯物を取り込んで風呂場の方へ駆けて行った。
俺は開けっ放しの掃き出し窓のそばで空からひらひらと舞い降る雪を見上げた。
…これもプレゼントかな?
粋な計らいだと感心しながら窓を閉める。
ありがとう。俺も君と会える日を待ってるよ。
君がいることが最高のプレゼントだから。