前から記憶の中に一部だけぽっかり穴が開いてる部分があることは分かっていた。埋まらない穴が気持ち悪いとは思っていたけど、思い出せないから大したことじゃないんだと言い聞かせてた。
「…おもい、だした…。ぜんぶ…。僕、しょーちゃんに、なんてことを…」
しょーちゃんの好きを信じられなかったのは僕のせい。
しょーちゃんに嘘をつかせたのは僕。
何が僕に嘘をつくぐらいなら死ぬまで騙せだ。騙し通してそれを本当にしてくれなんて、よくも言えたものだ。
僕のための嘘なんて大義名分はいらないなんてカッコつけて。
こんな哀しい嘘のつかせ方ある?!
「ごめ…。しょーちゃ…、ごめんなさ…」
顔を覆って泣く僕に気付いた二宮さんが駆け寄ってきた。
「相葉くん?どうしたの?また気持ち悪くなった?吐く?」
懺悔するみたいに布団の上で額をつけて泣く僕の背中を摩ってくれる二宮さんに、何度も首を左右に振る。
「ちが、違う…。僕、しょーちゃんにひどいことを…」
大野さんが言うように、今までしょーちゃんに甘え過ぎてたんだと思う。
なにかあれば助けてくれるって心のどこかで思ってたし、確かに頼り切ってたかもしれない。
しょーちゃんの優しさにつけこんで嘘をつかせ、自分はあんな風に取り乱す姿を晒しておきながらしょーちゃんは僕を頼ってくれないなんて子供じみたワガママを言った。
こんなんじゃしょーちゃんはいつまで経っても僕を頼れない。
もっと大人にならなきゃ。
今までモデルの仕事でも、プライベートでもしょーちゃんを心の拠り所にしてた。
だけど、もうしょーちゃんと仕事をする機会は今後なくなるかもしれないし、困ったからと言ってしょーちゃんに泣きつくわけにはいかない。
しょーちゃんには守らなきゃいけない大切なものが出来たんだから。
僕は自分の足で立たなきゃいけないんだ。
その為にすべきことはちゃんとやらなきゃいけない。
目の前にあることをひとつひとつ大事に。
僕らの為にベストを尽くしてくれる人にその分しっかり返さなきゃいけない。
まず僕が最優先でやるべきことを考えよう。泣いてる暇なんてない。
体を起こし、グイっと手の甲で目元を拭って濡れた睫毛についた涙の粒を払う。
いつの間にか二宮さんの隣に大野さんがいて、僕の様子を静かに見守っていてくれた。
「…大野さん。二宮さん。僕は目の前にあることに全力を尽くしたいと思います。今は、ブライダルフェアを成功させることに全力を注いで、後悔しないように頑張ります。だから、僕に力を貸してください」
僕は姿勢を正し、2人に頭を下げた。
そして、しょーちゃんに見てもらうんだ。僕は大丈夫って。しょーちゃんが安心して会社とマリエさんと赤ちゃんを守れるように。
「分かった。応援する」
大野さんは笑ってくれた。いつものふにゃんとした柔らかい笑顔じゃなくて、しっかりとした大人の男の人だった。
「相葉くん…」
逆に二宮さんは、僕を心配するお母さんみたいだった。