「ニノ、相葉ちゃん。いい?

 

 

コンコンと廊下へ続くドアの向こうからノックされて大野さんの声がした。

 

 

「あ、はーい。どうぞ」

 

 

二宮さんが返事をしてからドアが開いて大野さんが入って来た。

 

 

「話の最中にごめん。腹減っちゃって、お湯だけもらったらすぐ出るから」

 

 

そう言ってすぐにキッチンの方へ向かって、戸棚の方でゴソゴソする音がしたかと思うと、あれ?とか、どこだ?とか聞こえてきた。

 

その声を聞いた二宮さんが立ち上がり、大野さんの方へ行って二人で探し始めた。

 

あったよと言って二宮さんがカップ麺を手に立ち上がり、大野さんはお湯を沸かすために鍋に水を張り、2人仲良く話しながらそれぞれ準備をしている。

 

 

やっぱりこの2人が仲睦まじい姿を見られるのは心が温まる。

 

 

2人にはいつまでもこのままでいて欲しいと心の底から願う。

 

 

 

布団の上に残された僕は心の中で膨らんだ蕾が萎れていくのを感じ、シャツを掴んでいた拳をゆっくり離すと、そこだけじっとりと汗ばんでいた。

 

 

 

 

「あ」

 

 

お湯が沸くのを待っている間に大野さんが飲んでいた水道水の入ったグラスに肘が当たり、グラスが倒れた。

 

 

「ちょっと、何してんのよアナタは」

「ごめんごめん」

 

 

声で気づいた二宮さんが拭く物を用意してる間にも水が零れていく。

 

 

何故か、僕はそこから目が離せなかった。

 

 

瞬きも忘れ見入っている内に、頭の中を何かが掠めた。

 

 

グラスから零れた水は照明の反射で所々でキラキラ光っている。

 

 

それを見ている僕の目の前も、頭の中にもキラキラと何かが光って見えた。

 

 

光の向こうに見えたのは。

 

 

 

 

家だ。

 

 

 

 

でも僕ん家じゃない、誰かの家の中。

 

 

 

 

見慣れたその場所は。

 

 

 

 

 

しょーちゃんの家だった。

 

 

 

しょーちゃんの家で、僕が泣いている。

 

 

しょーちゃんの好きだよ、って言葉と、泣きそうな顔を見て僕は、別れたくないって泣いて怒って、そして…。

 

 

 

 

 

そうだ。

 

 

 

あの時僕は、訪れたホテルでしょーちゃんに似た人を見つけてそれを確認するためにしょーちゃんの家に行ったんだ。

 

 

しょーちゃんのことを話す綺麗な着物を着た女性がいて、しょーちゃんがお見合いなんてするはずがないって確証が欲しくて、そしたら交流会に行ってたよって言われてあっさりそれを信じたんだ。

 

 

だけどしょーちゃんの好きだよがまるで別れの言葉みたいに感じられて怖くなって、僕は泣いたんだ。

 

 

僕の不安がしょーちゃんにそんな顔をさせたのに、僕はそんなしょーちゃんに自分の不安をぶつけてそんなはずないって、一方的になかったことにした。

 

 

しょーちゃんが僕に嘘をつくはずがないって、あっちゃいけないって、自分に都合の悪いことはなかったことにしたくて、自分でそこだけ記憶を消したんだ…。