「本来ならこれは櫻井の役目だと思うんだけどね…。相葉くんを救うのは一番の理解者であるはずの櫻井なのに、それが当事者じゃあねえ…」

 

 

抱えていた膝に肘を乗せて頬杖をついた二宮さんが、溜息をついてそう言った。

 

 

「……なんか…意外です…」

「ん?

「僕からすれば、二宮さんもしょーちゃんと同じ側です。無駄に人を甘やかさないで、でも自分にはもっと厳しくて、妥協を許さない姿勢は大野さんも含め、みんな似てますよ。だから、二宮さんが僕の気持ちを理解できると言ってくれることは、すごく不思議で…、でも嬉しいです」

 

 

3人とも自分がやりたいこと、やるべきことを明確に持っていてそれを実行していて、僕にはその姿が眩しく輝いていた。それと同じことを二宮さんはしょーちゃんと大野さんに感じていて、もしかしたら感性が似ているのかなって思った。

 

 

それに、誰にも臆することないように見えていたけど実はそうじゃないって言うのは、本当にびっくりだけど。

 

 

「僕やしょーちゃんにはともかく、大野さんにも強気だと思ってたんですけど、違ったんですね」

 

 

あんなに僕やしょーちゃんに当たりは強いのに、大野さんには出来ないなんて可愛い一面も見えてしまった。

 

僕には、え、あれで控えめだったの?って思うぐらいだけど。それぐらい傍目には違いが分からないレベルだけど、本人には全く違うんだろうなあ。

 

 

「そこ。そこなのよ。俺、櫻井に限らず他の人になら全然行けるんだけど、あの人だけはマジでだめなんだよなあ…。他人から何言われようが、何されようが全ッ然気になんないのに、あの人だけはもうなんて言うかさ。…誰かひとりに執着するなんてこと、面倒だから今まで避けてきたからこういう時どうしたらいいのか、本当に分かんないんだよねえ…」

 

 

くるくる表情の変わる二宮さんの様子から、自分の中に今までなかった感情に戸惑っているのがよく分かった。

 

 

 

そういう自分が嫌になるって気持ち、僕も分かる。

 

 

相手の顔色ばっかり気になっちゃって、少しでも好かれたいと思う。嫌われたくないと思う。でもそしたら、今までの自分らしさはどこに行っちゃったの?って不安になる。

 

しょーちゃんが好きになってくれた僕は普段の僕なのに、その僕じゃなくなっちゃったらどうなっちゃうの?て考えたり、そんな事を考える自分が嫌になったり。

 

自分が自分じゃないみたいなのが気持ち悪く感じたり、嫌いになったり、不安になったり、その度に考えて考えて考えて答えを出したはずなのに、いつの間にかまた…で、ずっとぐるぐるループしちゃうんだ。

 

 

不毛なことだと分かってはいるけど、悩まずにはいられないって言うの?性分なのかな。きっとしょーちゃんはこんな悩み持ったことないだろうなあ。

 

 

誰かの言葉に一喜一憂するしょーちゃんは想像つかないよ…。

 

 

 

 

 

 

「…て言うかさ、いつの間にか俺の話になってるけどそもそも相葉くんの話だよ。俺のことはいいのよ。社長に会って櫻井と喧嘩になったんだっけ??後はなんだ。えーっと、交流会のことがバレて、吐くぐらい嫌いになった?で、合ってる?

 

 

なんか色々、微妙に間違ってる。

 

 

「社長に会ったことが喧嘩の原因じゃないです。直接的な原因は、交流会の目的を知りながらも参加を続け…」

 

 

ここまで話して気づいた。このまま話を続けるとどうしたってマリエさんの存在に触れないわけにはいかなくなる。

 

どうしよう。どこまで話すべきか。勘の良い二宮さんには隠すだけ無駄かもしれない。もしかしたらしょーちゃんから既に話を聞いてるかも。

 

 

 

でも、もし何も聞いていなかったとしたら…?

 

 

 

ロビーで話していた時の感じではまだマリエさんの子供の話は内々だけみたいだし、そもそも僕の口からそれを話すのは筋が違う気がする。

 

 

さっきもそれで散々悩んだ。すべてを打ち明ければどんなに楽になれるか。二宮さんだから話しても大丈夫なんじゃないかな。

 

でも。

 

何度もこれで葛藤して、言葉が行ったり来たりを繰り返した。どうしようか。言うべきか言わないでいるべきか散々悩んで迷って。

 

 

「…………」

「…?相葉くん?

 

 

視線だけを二宮さんの方に向けると、不思議そうな視線を返された。

 

 

「あの…」

 

 

自分のシャツの胸元を掴み、意を決して声に出した。