車で少し走ったところにたくさんの船が泊まっている港らしき場所がうっすら見えた。
大きな船からヨットのような形まで様々。
「うわー、カズ見て見て。すっげー色んな種類の船があるよ」
「そうだね・・・」
あの中のどれかがオレたちの乗る船なのかと思うと妙にワクワクしてきたけど、カズの顔色はどんどん悪くなっていった。
カズは乗り物酔いがひどくて、ロケの時も長時間電車やバスに乗るとよく吐いていた。
船は酔いやすい乗り物だから余計に心配なんだろうな。
車は一度港を通過して、その先で停車した。
「あれ?港に行くんじゃないんですか?」
「うん。港に向かってたんだけどね。あ、二人ともちょっと頭伏せて」
言われるまま二人で頭を下げると、上から布切れが被せられた。
そのままじっとしているように言われ大人しくそれに従う。
オレ達が乗る車が停車して少しすると一台の車が横を通過する音がして、車内に一瞬緊張が走った。
「ごめん、その布取らないでそのままでいてね」
ふたたび車が動き出してもオレとカズはそのままの状態で、次に車が止まって下りる時はさっき見た港が反対車線にあった。
スタッフさんが左右を確認するとオレたちに手招きして、素早く車線を渡らせて身をかがめるように指示を出す。
そのまま港に下りて、小さな船の前で立ち止まり、何やら英語を話し出すと中から人が現れオレたちに向かって話しかけて来た。
スタッフさんが通訳してくれてカタコトの英語で返事をして握手を交わした。
急いで船に乗って港を離れる。
港を出てしばらく経ったころスタッフさんが不可解な行動の意味を教えてくれた。
「実はホテルを出てすぐぐらいに後ろから怪しげな車に尾けられていたみたいでね。最初はすぐ港で下りる予定にしてたんだけど、こういう時は一旦通り過ぎてその車を先に行かせるよう田ノ浦さんから指示が出ているんだ。
横を抜ける時に中を見られてバレちゃマズいってことで布を被せて隠すように言われてね。
一応こっちからも怪しい車のチェックはしたんだけど、念のためそのまま移動した方が良さそうだったから二人には悪いんだけど、そのままでいてもらったんだ」
その話を聞いてますます自分たちが映画かなにかに出る探偵やスパイになった気分でオレのテンションは上がっていた。
対してカズのテンションはダダ下がりで、船に乗ってすぐ無口になった。今はオレの肩によっかかり目を瞑っている。
「カズぅ、大丈夫~?」
「・・・・・・・・・」
目を閉じて眉間に皺を寄せるばかりで返事が返ってこない。
そして返事の代わりに、オレの服の右肘をキュッと掴み離そうとしない。
その力強さがカズの不安の大きさ。
「・・・・・・」
だからオレも言葉の代わりにぽんぽんと二回カズの背中を叩いた。
どれぐらいの時間船に乗っているのか分からないけど、右側のカズの温かさと前日までの緊張と寝不足とで気づけばお互い肩と頭で支え合うようにして眠っていた。