「今日も一日お疲れ様。そして、ジャニーズ事務所に入って25年おめでとうございます」
「んふふ。おつかれ」
僅かに下げて微かに傾げたグラスを合わせると、軽やかな高い音が鳴った。
グラスに口をつけ横目で、こくりこくりと小気味よい音を立てながら上下する喉元を見つめる。
満足そうに一息ついてグラスを置くのを見届け、自分も少しだけ喉を潤わせグラスを置いた。
「…25年だって。四半世紀だよ。凄いね兄さん」
「んふふ。そういう翔くんだって24年じゃん。俺より1年後なんだから」
「中途半端ぁ~」
わざと大仰にして天を仰ぐ。
「そんなことないよ。丁度干支が2周でしょ」
「まあまあそうなんだけどね」
厳密には干支じゃなくて十二支なんだけど、それは今は置いといて。
先日、我がグループの最年長者でリーダーの智くんが事務所に入って25年が経った。
祝うべく集まろうとしたら当日は都合がつかなくて、少し遅れての今日になったんだけど。
番組収録がある日だったから5人一緒かと思ったら、なぜか智くんの方から俺だけご指名で。
不思議に思いながらも、もしかしたら何か話したいことでも?と本人に確認したところ、そういった込み入った内容ではないということだったので、智くんのリクエストでもある『俺の行きつけ』の、カウンターしかないこの店の予約を取った。
「ねえ。今更なんだけど、聞いていい?」
「ん?何を?」
たこわさを口に含みながら智くんが視線だけこちらに向けた。
「なんでなの。兄さんのお祝いなんだからそういう時ぐらいここじゃなくても良かったんじゃない?」
それこそ、松本が行くような洒落た店やバーの方がよほど祝い事には向いていると思うんだけど。
なにも俺が普段食事に行く店じゃなくても…。どうせならちょっとイイ店とかに連れて行きたかったのに、畏まった店は却下された。
「だって普通にメシ食いたかったんだもん。松潤と前行った店は、マジでこんなちょこーっとした器にちょっっとしか入ってないのにすんげー金額なんだもん。会計ン時2人して目ン玉飛び出るかと思ったよ」
笑いながらサイズ感を表すために指で形作って見せてくれた。
確かにそのサイズでは腹は満たされそうにないな。
「翔くんと俺は味の好みが似てっから、翔くんが美味いと思うなら絶対美味いじゃん」
「そ、そおかな?」
「そうだよ。だからやっぱり今日も美味い」
そんな満足気な顔されたら、もう何も言えないじゃん。
智くんの言語表現はストレートだから言われた方は照れくさいし、カウンターの向こうに立つ大将も心なしか機嫌が良さそうだ。
その証拠に、いつも食べに来てる俺が食べたことのない品が出された。
「えっ、これ何?」
「いつもご贔屓にしていただいているお得意さんだけのサービスです」
「マジで!!うわー、超ラッキー!今日翔くんと食べに来れて良かったー」
智くんはキラキラ目を輝かせて喜んでるけど、絶対嘘だ。俺、多い時は週4とかで来てるけどこんなの初めて見たし!!抗議しようにも既にこちらに背を向け他のお客さんと話しているし、智くんは喜んでパクパク食ってるし…。
その食いっぷりを見てたら、段々、もういいかという気になる。
「そんなに好き?」
「うん。だって、これマジ美味いよ」
「じゃあこれもどうぞ」
俺の前にある器を差し出すと、途端に慌てだす。
「えっ!いいよ、それは翔くんのなんだから翔くんが食えよ」
「大丈夫。俺はまた食いに来れば出してもらえるだろうし。お得意さんだけのサービスって言ってたでしょ。だから今日は智くん食べて」
未だ背を向けている大将を親指で指して向こうに聞こえない程度のボリュームで話す。
「……………」
智くんは目の前に差し出された器を凝視している。
「どうぞ」
「~~~~~~~~~っ」
俺が掌を上に向けて促すと、俺の顔と大将の背を何度も交互に見て葛藤を見せる。
そんな悩むぐらいなら食えばいいのに。
箸を手にして器から一つまみすると、大将の背を見ている智くんの顎を掴んでこちらを向かせる。
「はい。あ~ん」
その言葉に条件反射みたく口を開けた智くんの口内に次々放り込む。
しまったという表情をしても時既に遅しで、見事に半分以上が智くんの口の中に収められた。
「よく噛んで食べるんだよ」
俺の言葉に頷き、もぐもぐと咀嚼する智くんの姿は一部マニアには評判が良いらしく、特に斜め後ろ30度から45度ぐらいの角度で撮られた時の頬袋の動く姿がたまらないらしい。
食べる智くんの姿をつまみに俺はグラスに手を伸ばす。