「ね。見て。さっき俺が撮ったヤツ」
そう言って見せてくれたのは先ほどスタジオで撮ったばかりの僕の写真。
ゆっくりと顔を上げると近くに一枚ずつそっと置いてくれた。
そこに写る僕は水分を失ってかっさかさの肌で、色だって白を通り越した蒼白さで、目も虚ろだし、ただただ口紅を差した唇だけが不自然に艶を放っている。
正直、僕は好きじゃない。
だけど…。
認めたくはないそこに『在る』僕は、確かに『現在』の僕だった。
焦り。悲しみ。愁い。怒り。憎しみ。欠落感。寂しさ。嘆き。生への執着の無さ。憤り。虚無感。諦観。とまどい。苦しみ。漠然とした罪悪感。すべてがどうだっていいと思う投げやりな気持ち。それらがぐるぐるマーブル模様みたいに写し出されていた。
「すごいでしょ。人間の持つありとあらゆる負の感情が透けて見えてるみたいじゃない?」
そう言われると確かに、無気力を見えるようにしたらこんな形になるのかもしれないと思った。
呼吸をすることさえ無駄だと捉えていそうな写真の中の僕の姿は、見ているだけでも気が滅入る。
人によっては陰の気に引っ張られてしまいそうなこの写真は今後はあまり人目に晒さない方がいいかもしれない。
実際、引き摺られそうな気分になったので、体をうつ伏せから仰向けに変えて顔ごと逸らそうとした。
「だけどさ…、俺は綺麗だと思ったんだ」
なのに体勢を変えることしか出来なかったのは、二宮さんのこの一言があったから。
綺麗?この写真が?禍々しささえ感じている僕には有り得ない感想だった。
無造作に掬い取った一枚を二宮さんは満足そうに見つめている。
「こんなに世も末みたいな表情なのにさ、生きる意味も失ったような顔してるのに、それでもどこかで信じてるんだ。愛とか、希望とか、夢とか、生きる意味を探そうとしてる。愛されたいと強く願っているのに、愛することを止めたいと思ってる。愛することと愛されることの矛盾から生まれる葛藤。んー、ちょっと違うか。…餓えてんのかな、愛そのものに。渇望…なのかなぁ」
写真を手に独り言のようにブツブツ呟いている。
「だけどさ、それでも完全には失われない純粋に人を想う心。すべてを失ったようで、幸せだった記憶は何ひとつ失われてないんだ」
二宮さんの顔が、ビー玉を空に翳して出来た眩さに目を細めるみたいにして笑う少年のように見えた。
「人間なんて所詮欲の塊よ?相葉くんを撮るなら大野さんが撮る方が綺麗に決まってる。だけど今の相葉くんを撮れるのは俺だと思ったし、他の奴になんて撮らせたくないって思った。たとえ大野さんでもね」
写真を置いて膝の関節をポキッと鳴らしながらゆっくり立ち上がった二宮さんは、冷蔵庫からペットボトルを取り出して蓋を開けて飲んで、再び蓋を閉めるとこちらへ戻って来た。
「体調悪いの分かってて無理矢理撮影させたのはごめん。そこは謝る。けど、この相葉くんは絶対撮らなきゃいけないと思った。大野さんじゃ駄目だと思ったし、俺じゃなきゃこの相葉くんは撮れなかったと思ってる」
大野さんならともかく、二宮さんがここまで自信たっぷりに言うことは珍しくて、それだけこの写真の出来が二宮さんにとって納得いくものだという表れなのかな。
だとしたら僕にとっての黒歴史みたいな写真でも、少しは誰かの救いになれるのかもしれないことが僕にとっての救いになった。
「…ありがとうございます」
満足そうにしている二宮さんを見ていると、自然と笑顔でお礼の言葉が口をついた。
「礼を言うのはこっちの方でしょ」
ふわりと笑った二宮さんの手が僕の前髪を額から後ろへ流すように梳き、肩が出ている布団を掛け直してくれた。