しっかり目を覚ましていた三人に合流したところで、田ノ浦さんからこれからの予定の説明を受ける。

 

 

「えー、皆さんにお伝えしていた今日のスケジュールですが、変更になりました。

情報解禁前にも関わらず、このホテルの周辺にマスコミの人間が確認されております。

本日予定しておりますように、グループ名及びメンバーはこの後マスコミ各社に通達することになっておりますので、現時点で情報漏洩は防止しなければなりません。

予定では早朝、全員でマリーナに移動して船舶に乗船することになっていますが、それを変更してこれより移動を開始致します。

またその際、全員での移動は危険と判断し、グループに分かれ、それぞれ別の場所から乗船し、最終的に本日会見予定のクルーザーにて合流という形を取ります」

 

 

大幅な予定の変更にスタッフが一斉にざわつきだす。

 

俺たちはまだ事の重大さにそれほど理解が及ばないせいで、取り残された感じが否めないが、漠然とした不安は伝播した。

 

 

パンッと田ノ浦さんが手を打つと水を打ったように静まり返る。

 

 

「それでは、大野くんは松本くんと二宮くん、櫻井くんは相葉くんとグループに分かれて移動します。

それぞれスタッフが付き添いますので従ってください」

 

 

田ノ浦さんが目配せすると、スッと選ばれたスタッフがメンバーの側に歩み寄った。

 

 

 

「えぇ~。俺もあっちがいいー」

 

 

グループ分けに即、潤が不満の声を洩らす。

 

そして、名前が呼ばれた時に一瞬身を硬くした『相葉雅紀』が、更に身を硬くしたのが分かった。

 

理由はたぶんこのメンツだろうな。

 

 

まず、俺がペアだったことにビビって、そしてスタッフが例の『アイツ』だったから。

 

 

ここへ来てからずっと『相葉雅紀』にちょっかいをかけてくるスタッフが護衛じゃ護衛の意味ねぇもんな。

 

 

「なんでこの組分けなワケ?」

 

 

潤は潤でうるせぇし。

 

 

 

 

 

「あのー・・・、僕、多少英語は出来るんでこの人と二人でいいです。カズ、相葉くんと組んで」

 

 

挙手して田ノ浦さんに進言すると、少し考えた後それでも構わないと了承してくれて、すぐに段取りが変更された。

 

 

明らかに安心している『相葉雅紀』を尻目に、納得いかない様子の潤に耳打ちした。

 

 

「潤。智くんのこと、頼んだよ」

 

「え?俺に?」

 

「おまえなら安心して智くんを任せられる」

 

 

にっこり笑って言えば、潤は顔を綻ばせた。

 

 

「わ、わかった。ちゃんと連れて行くから」

 

「うん。じゃあ後でな」

 

「しょおくん、気を付けてね」

 

「ハハッ、おまえもな」

 

 

軽く肩を叩いて、それぞれのスタッフに従い移動を始めた。

 

俺は例のスタッフとタクシーに乗り込み、隣り合って座る。

 

互いに左右に流れる外の風景に視線を向けて会話なんて全くない。

 

夜明けまではまだまだ時間があるので外なんて何も見えないけど。

 

ちらりとそいつのいる左側に視線を向ければ、明らかに不満そうな表情をしていた。

 

 

そりゃそうだろうな。

 

せっかく『相葉雅紀が』一緒だと思ったのに、離れた挙句、俺と二人きりだからな。

 

 

 

また視線を外に戻し、マリーナに着くまで一切会話を交わすことはなかった。

 

 

 

 

 

タクシーを降りて、スタッフが先を歩く。

 

時々小さな船の側面を覗きこんでは何かを確認しながら進んで行く。

 

どうやら船名を確認しているらしい。

 

しばらく歩いていると、前方に人影が見えた。

 

その人が話しかけて来てスタッフが船名を確認して一言二言何かを話し、握手をした。

 

この船でクルーザーに向かうらしい。

 

必要最低限の会話しかしない俺とスタッフだったが、それはクルーザーに移るまで変わることはなかった。