「どういうこと?」
「しょ…ちゃん、…知ってたんです。そう言う目的があるってこと。だけど、僕がいるから、自分には関係のないことだと思ってたって。僕が心配するようなことはないから信じてって言ったんです…」
あの時、しょーちゃんは確かにそう言った。
そしてそれよりずっとずっと前に、僕には、僕にだけは嘘をつかないって約束もしてた。
なのに…。
「そう…。でも、知ってても何にもならなかったんならいいじゃん」
「僕、その前に、しょーちゃんから距離を置こうって言われてたんです…」
「はっ!?どういうこと?」
「社長と面会した後、その足でしょーちゃんのところに行ったんです。ちょうどその時しょーちゃん出かけるところで、僕が交流会に行くのかと尋ねたところ、しょーちゃんは動揺してました。バレたと思ったんでしょうね。問い詰めようとした僕にまた仕事が忙しくなるし、僕も次の所属先決まってないんだから、少し距離を置こうって言われて…、僕は、しょーちゃんを詰りました。頭の中真っ白になって、しょーちゃんにそこへ行って帰って来るなって、追い出したんです」
思い出すだけでもまた泣きそうになる。
あの日から僕らのギリギリで支えられていたバランスが一気に崩れて上手くいかなくなった。
家の鍵も車の鍵も、携帯も全部置いていったから、しょーちゃんはそこに行くしかなくなった。
僕がそう追い込んだ。
自分に非があるのは十分分かってる。
あの時僕が冷静になってちゃんと話し合っていれば、あんな風に追い詰めなければ、しょーちゃんはきっと交流会に向かうことはなかったんだ。
だけど、そしたら僕はどうなってたんだろう。
距離を置いている間にしょーちゃんが交流会でマリエさんと再会して僕に内緒で何度も会っていたなら、…結局結果としては同じなんじゃないか?
しょーちゃんの事だから、マリエさんのことは僕に隠したまま僕との関係は変わらず続けていたんじゃないだろうか。だって、あの時しょーちゃんは言ってた。
僕次第だよ、って。
マリエさんはしょーちゃんと僕が今まで通りでも構わないと言ってるって。
今回偶然僕が知ることになったけど、もし社長と面会しなければその事実を僕が知ることはなかったんじゃないの。
そしたらしょーちゃんは何食わぬ顔で二重生活を送ったかもしれない。
マリエさんとしょーちゃんは知っているのに僕だけが知らない。そんな秘密の生活。
考えただけでゾッとする。
しょーちゃんは嘘を感じさせないことが出来る人だから。しょーちゃんは平然と誰かを騙せるから。まるで息をするように普通に嘘をつく人だとわかったら。
途端に怖くなった。