スタジオを片付けて2人の住まいへ移動した。
体調は回復しつつあるけど、リビングに布団が用意されていてそこに横になってていいと言う大野さんの言葉に甘えさせてもらった。
「ねえ、コーヒーの匂い大丈夫?」
「…あ、たぶん大丈夫だと思います」
布団の横にペットボトルの水と念のためにと洗面器が置かれ、その後香ばしい匂いがふわりと漂ってきたけど、気分が悪くなることはなかった。
「はいどうぞ」
2人分のコーヒーを運んだ二宮さんが、先に座って待つ大野さんの隣に腰を下ろして、僕へ話を聞く準備が整ったと促す。
「僕が前にここへ来たときに、片桐社長に呼ばれていたこと言いましたよね」
「うん」
「実際に会って色々話しましたが、結論はしょーちゃんと別れろと言うことでした」
「それって…」
「はい。僕らの関係は社長に全部バレてました。…そして、しょーちゃんは、僕の次の所属先を社長に斡旋してもらおうとしていました」
「は!?」
二宮さんは僕の言葉一つひとつに丁寧に相槌を打ってくれる。
「…社長は、しょーちゃんに日のあたる道を歩いて欲しいと言ってました。そのために交流会という名目の見合いをさせていたと。でもしょーちゃんはそれを躱し続けたので、僕からいい人を見つけるように言うことを求められました」
「なにそれ…。交流会って、そういう目的で使われてんの?」
二宮さんは知らなかったみたいで、隣に座る大野さんを見た。
「…まぁな」
大野さんは知っていたみたいでバツが悪そうに返事した。
「まぁな!?まぁなって事はアンタ知ってて…!!」
「うわっ!ちょっ、落ち着けニノ。ちゃんと説明するから」
ガバッと胸ぐらを掴まれた大野さんが揺さぶられながら二宮さんの手を掴む。
「確かに裏の目的として見合いはあったけど、毎回でもなかったし、そもそも出来レースみたいなもんだよ」
「どういうことよ。なんで出来レースなわけ」
「本人同士はそこで初顔合わせでも、その上で既に話は出来上がってんだって」
「上って?」
「互いの親同士で既に話はついてて、上手く行きゃそのまま婚約の運びになるし、万一破談になったとしても、表立っての話ではないから本人同士は知らないまま。だけど、業務提携は決まってるから会社としては損はしないってこと」
「はぁ~?子供をダシにしてんのかよ。最低だな」
「いや、だから毎回そうなってるわけじゃねぇんだって。本当に仕事が忙しくて出会うきっかけさえない人たちからしたら有効活用できる場だし、片方が目的を知った上で相手を知りたくて利用する時だってあるし、全部が全部出来レースばっかでもねぇんだよ」
僕が知りたいことをほとんど二宮さんが訊いてくれたおかげで僕は聞いてるだけで済んだ。
「あ。でも櫻井はそれを断り続けたんだよね。それが相葉くんのせいだと思って社長は発破かけさせようとしたってことか」
あいつ仕事バカだから気づかなかったんじゃねーの、なんて軽い悪口を放り込む。
「…そうだったら良かったんですけどね…」
二宮さんが言うように、本当に真面目に仕事一筋だったら良かったのに。
突然目頭が熱くなり、両手の甲で押さえた。