「…嫌だ。こんなの僕嫌だ。やめて」

 

 

顎を引いたまま、お腹に力を入れてしょーちゃんの肩を押しながら無理矢理身を起こすと、今度は大きな抵抗もなくすんなりと起き上がることが出来た。

 

 

「…あの、まさき」

 

 

起き上がっても俯いたまま顔を上げない僕に今度はしょーちゃんが不安になる番。

 

僕の対面に正座をして握り拳を乗せた太腿が見える。

 

 

「………」

「まさ」

「触んないで」

 

 

僕に向かって手を伸ばしてきたのを声だけで拒絶すると、慌てて手を引っ込めてまた膝の上で握り拳に戻った。

 

 

 

自分の声が想像以上に冷たくてキツくなったことに、自分にもこんな声が出せるんだと内心驚いていた。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

暫く無言の状態が続き、僕の方から声をかけるつもりは一切なくて、ひたすらしょーちゃんの出方を窺っていた。

 

 

 

 

 

「…えっと…、その…、交流会のこと…ずっと黙っていてごめんなさい」

 

 

右へ左へ視線を彷徨わせた後、観念したようにそう言うと、頭を下げた。

 

 

「………」

「でも最初からそういうつもりで参加してた訳じゃなくて、こんな荒唐無稽な話信用しろってほうが無理かもしれないけど、本当に勉強になることも多いし、実際、人脈もどんどん広がっていったし、仕事にも役立ってるのは本当だよ!?裏の目的を知った時はびっくりしたけど、確かに言われてみればそうなのかもと思うことは周囲で多々あったけどまさか自分がそっち側に参加してるなんて全く思ってもなかったし、俺には雅紀がいるから関係ないと思ってたんだ。嘘じゃないよ、マジでそう思ってるから、だから雅紀が思うようなことにはなってないから」

「………」

 

 

しょーちゃんの身振り手振りが説明しながらどんどん大きくなっていく。

 

それでも僕は俯き、無言を貫いた。

 

 

 

本人は気づいていないけど、しょーちゃんにはヒートアップすると早口で一気に捲し立てて喋り、ジェスチャーが外国人ばりに派手になるクセがある。

 

今回も例に漏れずそうなっていて笑いを堪えるのが大変で、思わず顔を背けてしまった。

 

 

「なァ…、信じて…もらえないの?駄目?

 

 

いつの間にか四つん這いになったしょーちゃんがすぐそこにいて、僕の顔を下から覗き込むように見ていた。

 

いつもは凛々しい眉を困ったようにハの字にして僕を見るその姿に思わずキュンとしてしまった。

 

 

一所懸命に弁明する姿に嘘はなく、本当にしょーちゃんは裏の目的を知らずに交流会に参加していたんだろう。途中でその事に気づきはしたけれど、仕事へのメリットの方が大きいと踏んだからそのまま参加を続けたという本人の説明は十分理解できることだった。

 

 

一瞬、僕の方へ伸びかけた手がすぐに反対の手でそのまま押さえつけらている姿を見たら胸が痛くなった。

 

 

僕が触られたくないと拒否したからしょーちゃんが僕に触れたいと思う気持ちを抑えてくれているんだと思ったら泣きそうになった。

 

 

今、口を開いたら、しょーちゃんを見たら、絶対に泣いてしまうから我慢しようとしたことがしょーちゃんにはしょーちゃんへの答えだと伝わってしまったみたいで、ゆっくりとしょーちゃんが離れて行った。

 

 

「…っか。そうだよな、信じろって方が無理だよな。ごめん、雅紀。俺も疑われた事にムカついて飲み過ぎちゃって、ついこんな時間まで飲んじゃっててさ、俺が鍵持ってないから雅紀帰らず待っててくれたのに悪いんだけど今日は送れないからさ、タクシー呼ぶから」

 

 

送れないからタクシーってもう普通に朝だよ?子供じゃないし、女の子でもないんだから普通に電車に乗って帰れるのに、どんだけ過保護だよ。どれだけ僕のこと好きなわけ?

 

 

ちょっと待ってて、とベッドから降りようと膝立ちで背を向けたしょーちゃんのズボンのウエストを掴んだ。