「それより、出かけるんでしょ?時間いいの?

「あ…、やべっ」

 

 

腕時計を見て焦り出すしょーちゃんを、冷めた目で見る僕がいる。

 

そんなしょーちゃんを見たくなくて顔を伏せた。

 

僕の横をすり抜けようとするしょーちゃんの腕を今度は捕らえる。

 

 

「雅紀…?

「こんなおめかししてどこ行くの?

 

 

掴んでいる手に力が入り、しょーちゃんの顔が歪むのが俯く僕の前髪の隙間から見えた。

 

反対の手できっちり締められたネクタイを下に向かって引っ張る。

 

 

「雅紀?ちょ、痛いから離し…」

 

 

僕から逃れようと身を捩って抵抗する。

 

 

 

 

 

 

 

「交流会?

 

 

その言葉で一瞬でしょーちゃんの体に力が入ったのが分かった。

 

 

 

顔なんて見なくたって、言葉にはしなくたってそれが答え。

 

 

 

 

正直なしょーちゃんの体。

 

 

 

 

それを見た僕は思わずクッと片方の口角が上がった。

 

 

 

 

知りたくなかった。知らなくてよかったのにな。

 

 

 

 

強く握りしめていた手をパッと開いてネクタイから離す。

 

 

 

 

 

「今日はどんな人と会うの?

 

 

しょーちゃんの顔を見ないまま。見れなくて。目を合わさないまま乱れたネクタイを綺麗に直しながら話を続ける。

 

 

「雅紀・・・?

 

 

こっちを凝視してるんだろうなって分かるぐらいの強い視線を感じる。

 

 

「交流会って名目で、本当は女の人と会って話すんでしょ?隠さなくたっていいよ。僕知ってるし」

 

 

クスクス笑い声が零れる。

 

 

 

なんでだろう。

 

 

 

なんで僕は今笑っているんだろう。なにもおかしいことなんてないのに。楽しくなんてない。本当は泣きたいぐらいなのに、どうして僕は笑ってるの?

 

 

「まさ…」

「こんな時間からお出かけして?夜通しお話しですか?それって何の話なわけ?

 

 

 

なんでこんな言い方しか出来ないんだろう。

 

 

 

どんどんどんどん自分が嫌な奴になっていく。

 

 

 

心が真っ黒に染まっていくのが分かってるのに止められない。

 

 

 

口角が引きつるように上がっていく。きっと今の僕の顔はひどく醜いだろう。

 

 

 

しょーちゃんの腕を掴む力がどんどん強くなっていき、しょーちゃんの顔が苦痛に歪むのに緩めてあげられない。

 

 

 

それどころか更に締め上げようとしてる。

 

 

「い…っ。ぃった…い、まさ…、はなして…」

 

 

嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。この手を離さなきゃ。しょーちゃんが痛がってる。

 

 

そう思う自分もいるのに。どうしても緩められない。

 

 

今日の僕がどんな思いをしてきたか、しょーちゃんが何も知らない。

 

 

そのことがますます僕を苛立たせる。

 

 

 

 

 

 

「…ねえしょーちゃん。教えてよ」

 

 

苦悶の表情を浮かべているしょーちゃんの手を強く掲げて引き寄せて耳元で囁く。

 

 

「…ッ!!離せよっ!!

 

「うわっ」

 

 

しょーちゃんの渾身の力で突き飛ばされた。僕はリビングに無様にしりもちをつく。

 

 

「いい加減にしろっ!なんなんだよおまえっ!!ふざけんなっ!

 

 

真っ赤な顔してぜーぜー言いながら声を荒げてしょーちゃんが怒ってる。

 

 

 

そりゃそーか。こんなことされて怒るのは尤もだよね。

 

 

「…………」

 

 

僕の中にもう一人僕がいるみたいに、一歩退いたところから僕としょーちゃんを見てるみたい。

 

 

しょーちゃんは僕が強く握っていた部分を撫でながら荒くなった呼吸を整える。

 

そして深く息を吸い込んだあとこう言った。

 

 

 

 

「雅紀…。俺たち、少し距離を置かないか」

 

 

 

 

ょーちゃんの目は真っ直ぐ僕を見ていた。