「相葉さん…、先ほど申し上げたように翔は将来を嘱望された人間です。周囲を納得させるだけの実力を身に着ける大事な時期でもあるのです」

「そうですね…」

 

 

この人は一体何が言いたいんだろう。しょーちゃんがこのホテルにとって必要な人材なのは十分分かってるよ。だけどそれと僕の再就職は関係ないよね。

 

 

「同時に、翔を攻撃させる対象を作ってはならないんです。万が一そんなものが存在するなら早いうちに原因となる芽は摘んでおかなければらならない、と言う事です」

 

 

さっきまでの穏やかな表情とは全然違い、経営者の顔つきに変わっていくのが分かった。

 

 

「意味がおわかりですよね、相葉さん」

「………」

 

 

それって、僕の仕事がしょーちゃんの弱点になるってこと?なんで?ホントに意味分かんないんだけど。

 

 

頭の中にたくさん浮かんでるハテナが見えたのか、困ったように眉を下げて片桐社長は笑った。

 

 

「翔には今後も重要なプロジェクトを任せる用意があります。円滑に業務を遂行するには公私を支える存在が不可欠だと思いませんか?

「そうですね…」

 

 

しょーちゃんは、現場で人と接することが好きなのに?この人のやろうとしている事はそれとは逆なんじゃないのかな。

 

 

ブライダル部でお客様と一緒にプランを練ってる時、すごく楽しそうに仕事してる姿を僕は何度も見かけた。

 

 

この人は、あの時のしょーちゃんを見たことがあるんだろうか。

 

 

お客様と一緒になってオンリーワンの結婚式を創り上げていく生き生きとしたしょーちゃんの姿。

 

 

今のしょーちゃんは、責任ある仕事を任されて現場を離れる方が多くて大変そう。

 

 

笑顔よりも眉間に皺を寄せてる方が多いかもしれない。

 

 

メインはブライダル部だけど、他とも掛け持ちだし、この後にはうちと最後のブライダルフェアも控えてる。

 

 

この間マンションに行った時も、家の中がすごい事になってた。軽い大掃除だったもん。

 

確かに家の事まで手が回っていないのは事実だ。付箋だらけの資料とプライベートの連絡がつけにくいところがそれを物語っていて、誰かが家事をしてくれればそれだけでも楽にはなるだろう。

 

 

「翔は多忙ですからなかなかそういったお相手を探す時間も取れないもので、交流会を通して何人かとお話をさせて頂いているんですがねえ…。私のような輩に口うるさく言われるより、日頃親しくお付き合いのある相葉さんの方から直言して頂いた方がよほど効果があるんじゃないかと思うんですがいかがでしょう」

 

 

 

それって…。

 

 

 

片桐社長は確かに『交流会』と言った。

 

 

しょーちゃんや大野さんは人脈作りって言ってた。異業種の人と知り合うきっかけになるって。異文化を取り入れることで新しい提案に繋がるって。

 

 

「交流会って、お見合い、みたいなものなんですか…?

 

 

震える声でどうにか質問すると、『相葉さんは物分かりが良くて助かる』と片桐社長は笑う。

 

 

 

笑ってるけど、この人…。

 

 

 

まともにお会いするのは今日が初めてのほとんど知らない人だけど。

 

 

 

 

 

ずっと笑顔が違和感でしかない。

 

 

 

 

 

笑顔だけど、目が笑ってなくて、僕にとってはメリットのある話をしてくれるけど、僕に親切にしてくれてるように見えるけど、たぶん、本当のことはまだ言ってない。

 

 

上手く笑顔の裏に隠してる…ような気がする。

 

 

 

 

 

昔の二宮さんに似てるかも。

 

 

僕のことを良く思っていないけど、表面上は上手く取り繕って見せる時こんな風だった気がする。

 

 

 

 

 

「僕から、櫻井さんに結婚相手を探せと…」

 

 

 

 

ああ、そうか。そういうことかと合点がいったのは。

 

 

さっきぶつかりそうになって避けた机の上で見た物のせい。