「13時に面会のお約束を頂いています相葉と申しますが、片桐さんをお願いします」

「片桐ですね。少々お待ちくださいませ」

 

 

約束の日になり、緊張した面持ちで事務所のスタッフから言われた通りに片桐さんを呼び出してもらう。

 

 

 

先日、二宮さんたちに何気なく尋ねてみた人が、まさかのホテルのトップに立つ人で。

 

 

二宮さんを疑うわけじゃないけど、事務所が受けた連絡では役職は聞いてなかったとのことだったので、あえてそのままで呼び出させてもらった。

 

 

「社長直々に呼び出されるとか、相葉くん何したのよ」と二宮さんには半ば呆れられたけど、そんなの僕の方が知りたいよ。

 

 

今までのブライダルフェアでなんかやらかしちゃったのかな。それとも最後のフェアのことで何か言われるのかな。まあこれはないだろうけどここの専属になれちゃったりとか?

 

 

…うん、それはないな。

 

 

 

 

とにかく不安しかないけど、いくら悩んだって答えは出るはずないし、お会いして話せば自ずと答えは出るんだし、行くっきゃないでしょ。

 

 

 

 

目を閉じて背筋を伸ばして深呼吸をした。

 

 

 

 

「相葉様でいらっしゃいますか」

 

 

声を掛けられた方を向くと上品そうな女性が立っていた。

 

 

「あ、はい。相葉です」

 

 

あれ?確か社長は男性だったはず。

 

だけど目の前に立っているのは紛れもなく女の人で。

 

二宮さんから得た情報と合致しなくて、僕の表情は間違いなく戸惑っている。

 

 

「お待たせいたしました。私、片桐の秘書を務めさせて頂いております泉と申します。ご案内いたします」

「お、恐れ入ります」

 

 

そんな僕を意に介する様子もなく丁寧にお辞儀をされ、名刺を差し出されたけど僕は名刺を持っていないのでそれを伝えて両手で受け取った。

 

 

泉さんに促されるまま先行でエレベーターに乗り、降りる時も同じで、そこから社長室の前まで僕の斜め前を歩く姿は背筋が伸びて凛としている中、一つひとつの所作に女性らしさが伴って綺麗だな、と思った。

 

 

 

そして、しょーちゃんを想った。

 

 

 

しょーちゃんは男らしい所作だけど、しょーちゃんの立ち居振る舞いもキリリとしてかっこ良くて綺麗だ。

 

 

ただ腕を組んで重心を片方に寄せて話しているだけの立ち姿にさえ、僕は見惚れてしまうんだ。

 

 

この頃あんまりその姿を、と言うよりしょーちゃん自身を見れていなくて少し寂しいけど、今度のブライダルフェアでは見れるといいな。

 

 

 

 

いつもより早くエレベーターが止まった。

 

 

僕がいつも行くブライダルのあるフロアより下に社長室はあり、普段立ち入ることのないフロアはどことなく重厚な雰囲気がして、緊張が増す。

 

 

周りとは明らかに違う一線を画す物々しい雰囲気を漂わせるドアの前で泉さんの足が止まった。

 

 

 

いよいよだと、自然と僕は唾を呑んだ。