「いいの?」
「なにが?」
「…もし、もし僕としょーちゃんがそういう風になった、って時にばあちゃんたちに言ったら…」
きっと僕が同性と付き合っていて、結婚するとなったら親戚一同から何かしら言われると思う。
それで母さんが陰口を叩かれたり嫌な思いをするんじゃないかと思ったから、だからたぶんあの時言えなかったんだ。
そしたら母さんは、仕方ないなあと言った様子で小首を傾げ腰に両手をつけて一息ついて笑った。
「ばあちゃんも言ってたでしょ。雅紀は雅紀だって。何度も言うけど、あなたたちはあなたたちでやればいいの。周りに流されなくていい。あなたが、何か違うと感じるのなら尚更ちゃんと時間をかけて納得してからにしなさい。それからでも遅くはないから」
ばあちゃん譲りの優しい笑顔だった。
「親孝行の定義は人それぞれ。私にとっての親孝行は、あなたが幸せでいることだけよ。あなたが幸せであればそれでいいの」
そう言って母さんは僕の背中をぽんと叩いた後、踵を返し再び前を向いて歩き始めた。
胸を張ってずんずん先を行く母さんの姿はとてもたくましく、さっきまであんなに小さく思えた母さんの姿がとても大きく見える。
僕は小走りで母さんの後を追った。
「…やっぱり、母さんはすごいな」
「そう?」
すぐに追い着いてまた横に並んで歩く。
「うん。母さんが僕の母さんで良かったよ」
「やだー、なあにぃ?急にそんなこと言って」
母さんの中で、僕の恋人がしょーちゃんであることは何の違和感もないんだ。
それって簡単なようですごく難しいことだと思うけど、母さんにはおかしいことでもなんでもないって思ってくれることがすごく心強い。
僕が同性の恋人がいることを報告することを躊躇っていたのに、母さんはまだ結婚相手じゃないなら言わなくていいって言ってくれたことで、実は僕が拘っている問題は意外と些細なことなんじゃないかと思うようになっていた。