ばあちゃん家から自宅に戻る道中、母さんと並んで歩くのも久しぶりかもしれないと思いながら、ふと左を見た。
…あれ?なんか、母さんてこんなに小さかったっけ…?
僕の隣を歩く母さんを見て気がついた。
母さんのつむじ、あんな低いところだったっけ。
ばあちゃんの手や母さんのつむじ、今まで意識することなく見てきたものがなぜか今日は無性に気にかかる。
気になったのはそれだけじゃなく、ばあちゃん家にいる間中、ずっと心に引っかかっているものがあった。
「母さん…」
「んー?」
前を向いて歩きながら話しかけ、母さんもそのまま歩きながら返事をする。
「僕、言えなかった…」
隣を歩く母さんが僕を見上げる。
「おばちゃんたちや、ばあちゃんにもしょーちゃんのこと、言えなかった…」
だんだんと歩くスピードが遅くなって、遂には完全に足が止まった。
「雅紀…」
少しだけ先に進んだ母さんも足を止めて振り返る。
「別に恥ずかしいことでも、隠すようなことでもないんだけど、しょーちゃんは僕の大好きな、僕の自慢のしょーちゃんなんだけど、なんでか分かんないけど、どうしても言えなかったんだ…」
見栄だとか、恥だとか、そんなのとは違うけど。違うと僕は思っているけれど、どうして付き合っている人のことを正々堂々と言えなかったんだろう。
付き合ってる人のことを訊かれて答えるチャンスだったのに。
母さんには普段から色んな事を話せるのに。おばちゃんたちにだって今までこんな風に思ったことないのに、なんで…。
親戚に言えないこともそうだし、言えない自分自身にもショックだった。
「雅紀は何に焦っているの?」
「…え?」
「そもそも翔くんは、紹介することを承知してるの?」
「そ、れは…」
親に話していることはしょーちゃんに話しているけど、友達や親戚についてどこまでの間柄の人になら言ってもいいのか、具体的に話し合ったことはない。
「あなたは時々暴走することがあるから心配してるんだけど、あなたの勝手な行動で迷惑がかかるのは翔くんの方よ。だからよく考えて。あなたたちが話し合って結論が出た上での報告なら、言ってもいいんだろうけど。お付き合いしてるだけなんだったらそれはまだ言わなくてもいいんじゃない?」
僕の目の前に立った母さんがポンポンと髪に触れた。
「浩貴くんのことは、これからそうなりそうだから話題になっただけだし、あなたたちはあなたたちで決めればいいのよ。言うも言わないも2人の自由よ」
母さんは、『言わなくていい』じゃなく、『まだ』と言った。
そして、全てを曝け出し理解を求めるのが正解じゃないと付け足した。