その内ばあちゃんがすーすーと寝息を立て始めたので、全員で部屋を移動して一つのテーブルを囲んで雑談を続ける。

 

 

ばあちゃんの今後について、申し込み中の介護施設にもうすぐ空きが出そうとのことでそこから連絡が入れば入所してもらうことになっていた。

事前にみんなは各々そこに顔を出すことで話は纏まっているので、すぐに話題はそれぞれの子供たちのことになった。

 

 

「うちの下の子は、今は仕事が恋人なんて言って結婚のけの字も出ないわ。上の子は上の子で双子育児で毎日が戦争なんて言ってるしね」

「うちも浩貴がねえ…。彼女の方が年上なんだから早いとこちゃんとしなさいって言ってるんだけど、誰に似たんだか煮え切らなくてねえ」

 

 

伯母が溜息交じりにそう言えば、叔母も続く。

 

 

「あらー、浩ちゃん意外ねー。彼女年上なんだぁ」

「そうなのよ。あんたには勿体ないって言ってるんだけど。ふふふ。でもね、さすがに向こうが痺れを切らしちゃったらしくてね、遂にこの間雑誌持たされて帰って来たわ。そしたら中のページにまぁくんがいてさ。キリッとしてかっこよかったわよ」

「あはは。浩ちゃん、既に尻に敷かれてるじゃない。…で、雅紀はどうなの?

「えっ。ぼ、ぼく?!

 

 

それまで僕のいとこたちの話題だったのに、急にこっちに話を振られて焦った。

 

 

「そうよぉ。お付き合いしてる彼女くらいいるんでしょ?どうなの!?

 

 

付き合ってる人はいるけど、彼女じゃないし。相手が同性だとは母親には言えても親戚には何となく言いにくくて答えあぐねる。

 

 

「まぁくんは仕事で綺麗な人はたくさん見てるだろうから、目が肥えてなかなか相手が見つからないんじゃないのー?駄目よ?あんまり上ばっかり見てちゃ」

「そうよー。昔から美人は三日で飽きるって言うからね」

 

 

伯母たちは茶化すようにそう言うけれど、超絶美人のしょーちゃんの顔に見飽きたことなんて一日たりともない。

 

むしろ毎日だって見ていたいぐらいなんだけど、伯母たちに会わせられないのが残念でしょうがない。

 

 

「まあでも、うちもそうだけど、雅紀だってそろそろ孫の顔見せてやりなさいよ。それも親孝行なんだからね」

 

 

そう言われてしまうと何も返す言葉がなく、この場にいることがいたたまれなくなる。

 

 

結婚なんて出来なくて、もちろん子供を持つことなんて不可能な僕らの関係は、親不孝なの?と反論も出来なくて自然と顔が落ちた。

 

 

 

 

 

「…いいのよ。結婚に拘らなくても」

 

 

重苦しい空気を振り払ったのは母さんだった。

 

 

「相手がどんな人であろうと、雅紀が一生を共に出来る人に巡り会えたならそれで十分よ」

 

 

その言葉に顔を上げて母さんを見ると、母さんは穏やかに、穏やかに笑っていた。

 

 

「今は結婚しないって選択肢だってあるんだし、仕事にそれだけ打ち込めるのはすごいことじゃない。男性に頼るだけじゃない自立した大人の女って感じでいいと思うし、私達の時代にはなかったことだわ。子供を一人育てるだけでも一苦労なのに、二人も育ててる上に同時になんて本当に大変なことだと思うから尊敬に値するわ。浩貴くんだって、相手のことをちゃんと考えてるからこそ軽率な行動を取らなかったってことじゃない。みんなしっかりしてるから心配しなくたって大丈夫よ」

 

 

母さん…。

 

 

母さんはいつだって前向きなんだよね。そういうところ、本当にすごいと思うし、僕の周りにはこういう人がたくさんいて、僕は恵まれてるなあっていつも思う。

 

 

 

 

 

『…ゴソッ…。ガサガサガサ…。……じゅ…』

 

 

 

 

「ん?

 

 

どこかからスピーカー越しのようなくぐもった音がして、首を回して発信源を探す。

 

 

『お、みじゅ…』

 

 

ばあちゃんの声がライムグリーンの掌サイズのスピーカーから聞こえた。