「しょーちゃん?」
しょーちゃんの綺麗な綺麗な大きな目がまっすぐ僕を見ている。
「…好きだよ、雅紀」
思いがけない突然の告白に言葉を失う。
しょーちゃんは、普段そういうことを言わない。
僕が手料理でしょーちゃんの好物を作ったりしたら、ほっぺたをパンパンに膨らませながら『雅紀、好きー』と満面の笑顔でおいしいやありがとうの代わりに言うことはあるけど、こんな風にストレートにしょーちゃんの気持ちを伝えられたことはあまりない。
しょーちゃんはこういうことを口にするのが恥ずかしいみたいで、言葉にするより行動に起こすことで愛情を表現する人だった。
僕はそれを承知していたし、言葉はなくても愛されてるのは十分実感できていた。
そんなしょーちゃんが記念日でもなんでもない時にこんなことを言い出すなんて考えられないことだけど。
その分、キスをするよりも、体を繋げるよりも、何よりもまっすぐにしょーちゃんの嘘偽りない想いが僕にぶつかってきた。
ふわりと目を細めて笑うしょーちゃんが綺麗で綺麗すぎて、でも可愛くて、なのにどこか愁いを帯びたように不安げに揺れているようにも見えた。
僕を好きだと言うのに、まるで別れを告げるみたいだ。
シャボン玉みたいにぱちんと消えてしまいそうに淡くて儚げな笑顔。
言葉と表情があまりにもアンバランスで、僕の心は一気にざわめいた。
なんで急にそんなこと言うのと言いたいのに声にならない。
怖いよ、しょーちゃん。
自然と涙が零れた。
「…泣かないで」
しょーちゃんの指が僕の頬に伸びる。
僕が泣くとしょーちゃんはいつも困ったように眉を下げた。そして僕を抱きしめるのに。
だけど今の僕は…。
俯いたまま頭を振る。
しょーちゃんの手はいつだって温かくて優しくて変わらない。
それが一層胸を締めつける。
「…ふ、ぅ…っ。……く…っ。………ううっ」
ぎゅっと目を瞑ると堰を切ったみたいにボロボロと涙の粒が零れ、押し殺した泣き声は嗚咽となって溢れ出した。
「雅紀…っ」
しょーちゃんに抱き寄せられた体は斜めになって、腕の中に閉じ込められる。
ほら、しょーちゃんの腕の中はこんなに温かくて、絡み合って縺れまくった心がほぐれていく。
「う…ううーーーっ」
僕は背中に腕をまわしてしがみつくようにして泣いた。
「…なんで!!なんでっ、しょーちゃんそんなお別れみたいにっ、うっく…、ううっ、…言うのっ?ひどっ、ヒドいよしょーちゃんっ!僕やだよっ!!別れるとか…っ、そんなの、ィヤ…ッ、いやだっ」
しょーちゃんの服がぐっしゃぐしゃになるのも気遣えないぐらい強く掴んで、駄々をこねる子供みたいにワンワン泣いた。
「僕…っ、僕っ、しょーちゃんとお別れしたくないよ。モデルの仕事だって、もっと、仲良くなりた…っ。おーのさんにっ、もっと続けたい…!!いっぱぃ、しょーちゃっ、撮ってもらいたいしっ、にの、二宮、さんとっ。それなのに、そんなふーにっ、いっ、言わないでっ、イヤだぁーっ!!」
我ながら支離滅裂だったけど、とめどなく溢れ出す想いを言葉で上手に纏められなかった。
「雅紀…っ」
「やあ、だぁー…うあぁーん」
しょーちゃんはそんな僕を掻き抱いて、僕の名前を呼びながら落ち着くまでずっと抱きしめててくれた。