「正直さ、いきなり伯父さんだって言われても実感湧かなくて、俺にとっては自社の元社長としか思えなくて。亡くなってから親戚だって聞かされて、ごく僅かな身内だけで送り出して、つっても社長んとことうちの両親と俺ぐらいでさ。今までうちは親戚づきあいしてこなかったからすげぇ変な感じだったよ。むしろこの間の偲ぶ会の方が俺にはすげぇ馴染んでるように感じたしね…」

 

 

僕の方を見ないでこめかみをポリポリ掻いて気恥ずかしそうにしながら話した後、背を丸めて膝に肘をつけて先に伸びる両の掌を合わせて深い溜め息を吐いた。

 

身内のはずなのに、まるで他人事のように思う自分が心苦しいのだろう。

 

 

力無く肩を落として項垂れる姿にはいつもの覇気がなく小さく見えて、丸い後頭部をそっと撫でた。

 

 

「伯父さんは、きっとしょーちゃんに甥っ子として送ってもらえて嬉しかったと思うよ?僕も何度もあのホテルでお仕事させてもらってるけど、働いてる人たちはみんな優しい人たちばっかりで、あったかい雰囲気で見守ってくれてるようなそんな気持ちをいつも感じてるんだ」

 

 

色々なホテルを見てきたけどしょーちゃんのいるところはホテルだけどいい意味でホテルらしくない、都会にありがちなおしゃれだけど無機質な感じじゃなくてどこか家庭的なところが残ってるあたたかみのあるホテル。

 

 

「会社の社長さんからしたら社員て家族みたいなものだって言うじゃない。だからしょーちゃんが甥っ子だろうと社員だと関係はないんだろうけど、何も知らされないままだったらしょーちゃんは一社員のままだった。でも今回知ったことで、個人として考えたら身内として送ってもらえたならそっちの方が喜ぶんじゃないかな」

 

 

 

 

これは僕の勝手な想像だけど、お祖父さんの時は娘さんであるしょーちゃんのお母さんや孫のしょーちゃんがいるのに、最期を見送ってもらえないもどかしさや無念さを伯父さんたちはきっと痛感したと思うんだ。

 

本当はお祖父さんだって名乗り出たかったと思う。だけどそうしなかったから亡くなっても送り出してもらえなかった。

 

そんな想いをさせたくなくて、したくなかったから今回しょーちゃんに打ち明けたんじゃないのかな。

 

甥っ子として何かをして欲しいとかそんなんじゃなく、ただ、知ってもらうだけで良かったんだと、僕はそう思う。

 

 

「そう…かな…」

「きっと伯父さんたちだってしょーちゃんが戸惑うのは分かってくれてるよ。ずっとしょーちゃんを見て来てくれたんだもん」

 

 

しょーちゃんが小さな頃から今までを見守って来てくれた人たちが、大きくなったしょーちゃんが社員として働いてる姿を見てきた人たちが、しょーちゃんを分からないはずはないんだ。

 

 

「…そうだったら、いいな」

「…うん」

 

 

それが希望的観測だとしても、もう正解は分からないし、これから先にも明かされることはない。

 

なら、みんなが幸せだと思える方向でいいと思うよ。

 

 

「…………」

 

 

無言で僕の方に肩を寄せて体を預けてくる愛しい愛しい人のふわっふわのつむじが見えて、しょーちゃんがたまらなく可愛く思えてそこにそっとキスをした。