「はいっ!?

『…なんで疑問形なの?ごめん、いっぱい連絡もらってたみたいなんだけど』

 

 

 

 

耳から染みてくるのは低くて温かい声。

 

 

 

ずっと聞きたかったのはこの声。

 

 

 

僕の全部を包むみたいに優しい声を聞いた途端に、目の前の視界が潤んで見える。

 

 

 

「あっ、ご、ごめん。しょーちゃん忙しいのに」

『いや、いいんだけど。俺、今日家に忘れたまま外出してて、さっき確認したところでさ』

「そうなんだ。あの…、今からそっち行っても、いい…?

『え?今から…?

「ダメ…かな?

 

 

遠慮がちな僕の声に明らかに訝しがる返事が来て、それに僕が困惑した。

 

 

『駄目じゃないけど…、』

 

 

 

ダメじゃないけど…?なに?

 

 

 

次の言葉を聞くのが少し怖い。

 

 

『…………』

 

 

お互い黙りこんでしまって、その後が続かない。

 

 

その内、話し声ではない、ガサガサとかガチャガチャと別の音が聞こえて、次にガチャッという音がした。

 

 

 

しょーちゃん…?

 

 

もしかして、家にいない?どこか外に出てる?

 

 

「しょー…」

『あー…、来てもいいけど、今ちょっと家の中がえらいことになってるからそれだけ覚悟しといて』

 

 

チャリ、と金属音が電話の隅で聞こえて、それはいつもしょーちゃんが家に帰って来た時に玄関のシューズボックスの上のトレイに鍵を置いた音と同じだと分かる。

 

 

「…しょーちゃん?

『ん?

「今、どこにいるの?

『今?家。さっきコンビニ行って買い物して帰って来て今家着いたけど…、なんで?

 

 

ジャーッと水の音が聞こえる。たぶん今手洗いをしてるんだろう。肩と顎で携帯を挟んで喋りながら自宅の洗面所で手洗いをするしょーちゃんの姿が浮かんだ。

 

 

「…ううん。なんでもない。じゃあ今から行くから」

『おう。気をつけてな』

 

 

しょーちゃんが家にいることが分かってどこかホッとした、自分がいる。

 

 

 

電話を切った僕は、ホームの階段を二段飛ばしで駆け上がってしょーちゃんの元へ急いだ。