事務所の人とは現地で別れ、僕はしょーちゃん家の最寄り駅がある沿線の電車に乗っていた。

 

 

駅に向かう途中、改札をくぐりながら、乗り換える途中のコンコース、とにかく電話をかけまくった。

 

 

一向にしょーちゃんの声は聞こえなくて、毎回同じアナウンスが繰り返された。

 

 

 

 

メッセージも送った。

 

 

でも読んだ形跡はないままで、画面を見ている俯いた姿の僕が窓に反射していた。

 

 

 

駅に着いた電車が乗客を次々と吐き出し、最後に僕が吐き出されると電車はゆっくりと口を閉じ、僕の背中に風を飛ばし過ぎ去っていった。

 

背後から送り出された風に髪が激しめに踊り、視界を妨げる帳を作る。

 

僕は帳の隙間から握り締めた携帯電話を見つめ立ち尽くす。

 

 

 

しょーちゃん…。

 

 

 

今は仕事中なんだよね?忙しくて電話に出る暇なんてないよね?メッセージを確認することも、返事を返す余裕もないんだよね。

 

 

仕事、忙しいって言ってたもんね。

 

 

 

 

しょーちゃん。

 

 

 

ごめん。忙しいって分かってるけど。しょーちゃんを煩わせたくはないんだけど、このままじゃ僕がダメになりそうだから。

 

 

 

少しでいいんだ。しょーちゃんの声を聞いて、しょーちゃんの姿を見たら、たぶん安心するから。

 

 

 

 

 

だからしょーちゃん。

 

 

ごめん。僕を安心させて…。

 

 

 

 

祈るような気持ちでリダイヤルした。

 

 

 

さっきまでと同じように何回か繰り返されるコール音。長い長いコール音が続いた。

 

 

 

ダメか…。

 

 

 

コールに負けないぐらい長い溜め息を吐きながら、終話ボタンを押した。

 

 

 

しかたない。直でマンションで待つしかないなと思いメッセージを送ろうとしたタイミングで電話が鳴った。

 

 

「もっ、もしもしっ!?

『うわ、早っ』

 

 

画面を切り替えようとタップするのとほぼ同時の着信だったので、僕もそうだけど、電話の向こうでもびっくりしてるだろう顔が目に浮かぶ。

 

 

「あっ、今ちょうど電話触ってたところだったから」

『あぁ、もしかして櫻井からの連絡待ち?じゃあ用件だけ手短に言うわ。近々スタジオ寄って。大野さんのお土産あるから。それだけ』

 

 

耳に飛び込んできたのは、僕が想像していたのとは違う高い声。

 

 

「おみやげ?そんな…わざわざいいのに。でも嬉しいな、ありがとう。じゃあ後で予定確認してから連絡します。…うん。ごめんね、はい、じゃあね。……あー、びっくりした」

 

 

こちらの事情を考慮して手短にしてくれた電話を切って、思わず胸に手をやって呟いた。

 

 

掛けてくるタイミングと、あの人の相変わらずの勘の鋭さに感心してしまう。僕は電話を触ってたとしか言ってないのに、なんで連絡待ちしてる事とか、相手まで分かっちゃうんだろう。

 

 

 

次の瞬間また電話が鳴って、僕は今度は手から取り落としそうになって慌てふためきながら相手も確認せず通話ボタンを押して耳に当てた。