「…そうか。じゃあ今後うちのブライダルフェアに参加することは出来ないんだな」
「うん…。あ、でも今決まってる分はちゃんと出演するから。たぶん次回のフェアが最後になると思う」
事務所がなくなることで、僕はこの先もモデルの仕事を続けて行くのか、全く違う世界に足を踏み入れるのか思いがけない決断を迫られることになった。
「それで?雅紀はどうするつもりなの?」
「僕は…、できればこのままモデルとしてやっていきたいと思ってる、けど、次がすぐに見つかるかどうかは分からないんだ」
ブライダルモデルと言う特殊な職業は、最近特に需要が減っている。
内容に拘らなければモデルの仕事自体はたくさんあるけれど、ブライダルに固執すると極端に幅が狭まってしまう。
そこを自分の中でどう折り合いをつけていくかだ。
「雅紀は、どんなモデルになりたいの?」
「どんな、って…」
「具体的に誰みたいにとか、抽象的にこんな感じとか、何かあるの?」
「うーん。具体的に…って言うのはないけど、こんな風になりたいって言うのはあるんだ」
誰かを目標にするんじゃなくて、自分がどうなりたいかを考えてその目標に向かってる途中だった。
「へえ。そうなんだ。じゃあその目標が達成できるように頑張らなきゃな」
「うん。僕、絶対その夢叶えるんだ」
志半ばでこのままなんて絶対終わらせたりしない。
それはあの日、僕自身が出した答えでもあるから。
大野さんの夢を叶えるために二宮さんから打診された写真の使用許可。
あの時は断ったけど、本心は大野さんを応援するつもりだった。
大野さんを送り出すということはしょーちゃんへの背信行為に当たるから、その分、僕がしょーちゃんの役に立てるようになりたいと強く思った。
その為に僕が自分に課した目標は、僕自身が使われる価値のあるモデルになること。
モデルなら誰でもいい、じゃなくて企業から『相葉雅紀』が必要とされるようになること。
そうして必要とされるようになった相葉雅紀が、しょーちゃんのいるホテルのモデルに起用されることが今の僕の目標なんだ。
最終的にはしょーちゃんのいるホテルのブライダルモデルは常に僕でありたい。
「…そうか。頑張れよ」
僕の頭の上に手を置いて笑うしょーちゃん。
いつもより元気がない気がするのは気のせいなのかな。仕事で疲れてるだけならいいんだけど、やっぱり前社長が亡くなったって言うのはショックだよね。
一度は離れたけど、もう一度しょーちゃんを抱きしめた。
「…雅紀?」
肩越しにしょーちゃんのくぐもった声が聞こえる。
「しょーちゃんも辛いだろうけど、僕がいるからね」
「…ありがとう」
一日も早くしょーちゃんの心が癒されますように。
ずっと僕の中でしょーちゃんが心の拠り所であるように、しょーちゃんの中の僕の存在もそうでありますようにと、しょーちゃんを抱きしめながら強く願った。