玄関の鍵を開ける音が聞こえたので僕がそこまで迎えに出ると、ちょうどしょーちゃんが入って来て鍵を閉めたところだった。

 

 

「おかえり」

「ただいま」

 

 

玄関先でいつも通りハグをして、鞄と大きなビニール袋を受け取った僕はリビングへ戻り、しょーちゃんは手洗いをしに洗面台へ向かう。

 

 

 

ソファに荷物を置いて、飲み物を準備しようと冷蔵庫を開けてから考えた。

 

この後もう一度しょーちゃんは出かけると言ってたから、ビールはマズいかな。もしも車で移動するつもりだったら運転出来なくなったら困るだろうし。

 

少し考えて、手を伸ばしかけたビールを止めて冷蔵庫を閉めてウォーターサーバーの水を用意したら、しょーちゃんがネクタイを緩めながらリビングに来た。

 

 

「しょーちゃん、ビールじゃないほうがいいよね?

「あー…、うん。そうだね」

 

 

ソファに座ってビニール袋をガサガサと鳴らしてしょーちゃんが出したものはたくさんのカッターシャツだった。

 

クリーニングに出していたものを引き取ってきたのだろう。

 

一枚ずつ袋を破いて中身を確認しながらソファの背に掛けて行く。

 

全部を出し終えてハンガーを束ねて持ってクローゼットへ片付けに行くしょーちゃんを見送り、僕は豪快に破られたビニールの袋を片付けて戻って来るのを待った。

 

 

 

上着とネクタイも片付けてシャツとスラックス姿になったしょーちゃんがソファに座るまで、ずっと目で追い掛けてた。

 

 

「なに?

 

 

その視線に気づいたしょーちゃんがクスッと笑った。

 

 

「ううん。なんでもないけど、しょーちゃんだなあって思っただけ」

「なにそれ」

 

 

目を細めてクスクス笑うしょーちゃんが右隣に座ったのを確認してから、腕を広げてハグの催促をする。

 

 

背中に腕が回されきゅっと抱きしめられて、僕も同じように抱き返して、肩口に鼻を埋めて深呼吸を繰り返す。

 

 

 

その度にしょーちゃんの匂いが僕の内を満たしていく。

 

 

 

スーハー、スーハーと何度も匂いを嗅ぐとしょーちゃんの肩が揺れる。

 

 

「ちょっと雅紀、さっきから肩に熱い息がかかってくすぐったい。それに俺帰ったばっかで風呂入ってないんだけど…」

「いいの。しょーちゃんの香り満喫中だから。僕、しょーちゃんの匂い好きだし」

 

 

グイと肩を押しやられ離されかけるから、背中に回した手に力を入れてしがみつく。

 

しょーちゃん不足を補おうとしてるんだから、たとえしょーちゃんと言えど邪魔されたくない。

 

 

「あーもー、分かったからちょっと力緩めて。俺の背骨が折れるわ」

 

 

粘り勝ちで遂にしょーちゃんの方が折れた。

 

しょーちゃんの許可も下りたことだし、思う存分しょーちゃんを堪能させていただくことにする。

 

 

「…で。なんか話あったんじゃないの?

 

 

しょーちゃんの耳の裏やうなじの匂いを嗅いでる途中でそう言われて本来の目的を思い出す。

 

 

「あ。そうだ。すっかり忘れるところだった」

 

 

そうだった。ここに来た本来の目的は不足してたしょーちゃんをチャージじゃなかった。