玄関に取り残された僕は、しょーちゃんの行動が理解出来なくて、ただただポカンとしてしょーちゃんの背中を見送ってた。
パタンと廊下とリビングを繋ぐドアが閉まる音でハッと我に返り、慌てて後を追おうとしてよろけて、その時まだズボンが中途半端な状態だったことを思い出した。
急いでズボンをあげてジッパーを上げ、ボタンを閉めてベルトはそのままにして靴を脱いでしょーちゃんの後を追った。
リビングに着くと、しょーちゃんが冷蔵庫から取り出したペットボトルの水を直飲みしているところだった。
ごっきゅごっきゅとなだらかな喉がかすかに上下する。
少しだけ仰け反る姿勢に無防備になる首と、ペットボトルを握り潰す度に浮かび上がる手首の内側の筋がやけに色っぽく見えて、思いがけず自分の喉が鳴った。
十分潤ったのか、ペットボトルを口から離し、蓋を締め直してまた冷蔵庫にしまい、ぼくの前を横切って次は寝室へ向かって行った。
僕が崩した毛先がぴょこぴょこと跳ねる後ろ姿。
さっきは呆気に取られて、今回は見惚れて。
何回も見送ってる場合じゃない、と僕も寝室へ急いだ。
明かりもつけず、ドアから差し込む光だけを頼りにしょーちゃんは着替えようと、着ていたジャケットを脱ごうとしているところだった。
ちょうど片方の袖を抜いたところで、背中の辺りに抜いた袖がだらりと垂れ、もうその背中だけで色気が滲み出ている。
部屋の入口に佇んだ僕は、目を奪われるどころか呼吸をすることさえ一瞬忘れていた。
しょーちゃんに乱されまくった僕と違って、ここまで一糸乱れぬ姿だったしょーちゃん。
脱いだジャケットを後ろ手にベッドに放り、少し顎を上げネクタイを緩める仕草をした後、しばらくするとクローゼットを開けた。
ハンガーを手に振り返ったしょーちゃんはちらりと僕を見て、何も言わないままジャケットを手に取りハンガーにかけた。
「・・・・・・っ!」
カッターシャツのボタンを一つ外し、解いたネクタイは首にかけたままの姿が、悔しいけどかっこよくて。
僕の存在を認識してるのに、なんで無視するのかな。
僕の中でしょーちゃんの比重はどんどん大きくなっていくのに。
僕はどんどんしょーちゃんを好きになってく。
櫻井翔という人を知れば知るほど、大事にしたい。大切にしたい。そう思っているのに。
しょーちゃんにとって僕の存在はそうでもないのかな。
じゃあ僕はしょーちゃんにとってなんだろう。
そうこうしている間にもしょーちゃんの着替えは着々と進み、靴下とスラックスを脱いだところだった。
僕はベッドに乗ってしょーちゃんの後ろに回って、ぐいっと腕を引いた。
「!!」
力任せに引き倒し、上はカッターシャツ、下は下着姿のしょーちゃんは驚きながらベッドの上に仰向けに倒れた。
完全に身を起こす前に上から覆い被さり、顔の横に両腕をついて四つん這いになって逃げ道を塞ぐ。
しょーちゃんは、抵抗することもなく僕の下でジッと僕を見つめている。
僕はしょーちゃんの顔を真正面から見据えて、しょーちゃんが何を考えているのかを考えていた。
言葉を交わすこともなく、無言で睨み合う状態が続く。
「…………」
「…………」
ハァ、と溜息をひとつ吐いたしょーちゃんが肘を立て起き上がろうとして、体を後ろにずらしたからその分僕が前に詰めた。
「・・・・・・何」
怒っているような、不機嫌そうな声が、ここに来て三言目に聞いたしょーちゃんの声だった。
一言目は玄関でキスをした時。
僕の名前を呼んだのが一言目。
二言目は僕のを口に入れてむせた時。
それから今まで一切、声を発さなかった。
その声を聞いて、不覚にも涙が出そうになった。
目を瞑り眉間に力を入れることで、なんとかそれを回避した。