そこからはしょーちゃん家の最寄り駅で降りる時も、マンションまで歩いてる間もずっと注目を浴びたのは「しょーちゃんだ」「雅紀だ」の言い合いを繰り返した。
「大体さっ、しょーちゃんがそんなほっぺたほんのりピンクにして色気漂わせるのが悪いんじゃん」
「ハァ?!誰がそんなもん漂わすって!?雅紀こそ、撮影じゃねんだから王子様みたいに笑わなくていいんだよ」
いつもの1.5倍速で歩くからあっと言う間にマンションのエントランスに辿り着いた。
「僕が王子ならしょーちゃんはドSの帝王だよっ」
オートロックを解除している背中に投げつけた言葉がしょーちゃんの頭にスコンと当たった。
「・・・誰がドSの帝王だって?」
開錠と同時にくるりと振り返ったしょーちゃんの笑顔は、この後の展開を十分に物語っていた。
僕が後ずさるよりも早くしょーちゃんに手首を掴まれ、有無を言わさずそのままマンションに引き摺り込まれる。
「イヤだー。離せー、暴君。ドSー」
エレベーターに乗り込んで扉が閉まると同時にガッと片手で両頬を挟み込まれた。唇がピヨピヨひよこになる。
「ほょー。ひゃひふんらー。はにゃへー」
「うるさい。黙れ」
怖い顔をして超至近距離でしょーちゃんが言うけど、今の僕にはそれさえ僕を焚き付ける燃料でしかない。
「やらー。ひょーひゃん、ほあーい」
それは紙一重の挑発。
煽れば自分の身が危ういのは分かってるけど、だってこんなにイケメンが僕を見て熱くなってんだよ?
僕の手首を掴むしょーちゃんの手が僕以上に熱いなんて知ったらさ、我慢できないじゃない?
「黙れって言ってんだろ。・・・こんなところで騒いだってその口封じたりなんてしねぇかんな」
一回、少し強めに頬を挟まれた後、スッと手が離れた。でも手首を掴んでる手はそのまま。
・・・チッ。乗ってこないのか。残念と思いながら仕方なく大人しくする。どうせもうすぐ家だし。
エレベーターの扉が開いて、足早に家に向かって少し乱暴に鍵穴に鍵を差し込んで。
捻ってガチャリと鍵の開く音がしたら。
それは、合図。
始まりの合図。
滑り込むように2人で玄関のドアをくぐって、前を見る僕の視線と、少しだけ後ろを振り返るしょーちゃんの視線が絡まりあったら・・・。
次の瞬間。
両頬を押さえ込まれ、滾る眼差しで僕を見るしょーちゃんが眼前に迫ったかと思えば、すぐに噛みつくようなキスの嵐。
何度も何度も、何度でも。
侵入する角度を変え、抉る深さを変え。
言葉通り、貪られる。呼吸ごと奪われる。
気持ちよくて、気持ちに酔って、目を閉じる。
僕の腕もしょーちゃんが来るのと同じタイミングでその首に絡みつけた。
最初はうなじに手を。
撫でつけて。
すぐに肘を回して強く引き寄せて。
離させてなんてやらない。
しょーちゃんの吐く息さえ僕のもの。
さっきまで飲んでいたお酒の味と、喫んでいた煙草の味が雑ざる。
そして何よりもアマイ、しょーちゃんの、味。
じゅるじゅると啜る音。
もっと。
もっとだよ、しょーちゃん。
もっとちょーだい。足んないよ。
うっすら目を開けてみれば、そこにはヤラシイ表情をした僕が映るしょーちゃんの熱を帯びた目が僕を見てた。