あれから1週間後、正式に早期退職者に通達がなされ今後の進退を問う面接が始まったとしょーちゃんから聞いた。

 

別のホテルへの紹介や他業種への転職など、相談窓口を設けて退職後ある程度の身の振り方が決まるまでは面倒を見てくれるらしい。

 

最終リストから絞り込まれた人たちに、少なからずしょーちゃんは胸を痛める結果となったけれど、冷静に受け取めそれ以上心を乱す事は無かった。

 

 

 

そして今日は大野さんと二宮さんもそれぞれ有休を消化してホテルを退職したので、僕としょーちゃんで送別会をしようということで集まった。

 

 

「それでは、大野さんと二宮くんの前途を祝しまして、乾杯」

「かんぱーい」

「お疲れさまでした」

「ありがとう」

 

 

それぞれにグラスを合わせ、思い思いに飲んでいく。

 

 

「やっぱここの店の魚はうめぇなあ」

 

 

大野さんが頼んだ煮つけや刺身が並び、二宮さんが頼んだ湯豆腐やポテトフライ、しょーちゃんが頼んだ貝の盛り合わせに僕が頼んだからあげや焼き鳥が所狭しとテーブルに並んだ。

 

 

「やっと起きてる二宮と来れたな」

「っ!!ぐふっ!ゲホゲホッ、ゴホンッゴホンッ」

 

 

しょーちゃんがニヤリと笑うと、その向かいに座っていた二宮さんがビールでむせた。

 

 

「あああ、二宮さん大丈夫ですかっ」

 

 

僕は慌ててタオルを渡して零れたテーブルを布巾で拭き、二宮さんの隣に座っていた大野さんは背中を摩ってる。

 

タオルを口に顔を真っ赤にした二宮さんがしょーちゃんを睨みつけても、しょーちゃんは涼しい顔でビールを口に含んでいる。

 

大野さんも理解ってるぽいし、事情を知らないのはどうやら僕だけっぽい。

 

 

でも、3人ともすごく楽しそうで見ている僕もなんだか嬉しくて、楽しかった。

 

こんな風に4人で飲みに行くとか、考えられなかったし。

 

 

 

それぞれが近況を報告しあい、大野さんのところは開業までもう少しで、しょーちゃんは次の会議で所属がブライダルがメインになることが決まるらしい。

 

 

他の部署はこれから人事異動の検討に入るけれど、ブライダルは大野さんと二宮さんが一気に抜けたことでやはりいきなり主力2人分を埋めることが出来ず、これまでブライダルの経験が多いしょーちゃんが入ることで落ち着いたらしい。

 

カメラマンは大野さんの先輩で、大野さんと二宮さんが来るまではメインカメラマンを務めていた井ノ原さんが就くことになったとしょーちゃんが説明すると、2人が懐かしいだなんだと3人で昔話に花を咲かせ始めた。

 

 

そんな3人を見ていると、僕だけ話の輪に加わることが出来ず少し寂しい思いをしたけれどしょーちゃんが心底楽しそうにしている姿を見れただけで、どこか安心しているところもあった。

 

 

「人事と言えば、岡田っちにすげぇ恨まれたぞ。櫻井はゆくゆくはうちが貰うはずだったのにって。二宮だけじゃなくて櫻井まで持ってくのかってな」

「俺はこれでもう坂本部長とやり合わなくて済むと思うと、本当に気が楽になりましたよ」

「総務経理はほとんど人事異動しませんからね。坂本、岡田コンビのところに入った日にはもう恐ろしい事しか待ってない」

「俺、この人のせいで坂本部長には完全に目ぇつけられてたからね。領収証持って行く度にどんだけ言われたか・・・」

 

 

しょーちゃんと二宮さんで盛り上がる社内の様子は僕には全く分からないから、運ばれてきた物を食べることに専念する。

 

 

「相葉ちゃん、これ旨いぞ。食ってみ」

 

 

大野さんが注文した刺身を差し出され、一切れ貰って食べてみたらものすごい新鮮で脂がのってておいしかった。

 

 

「うわ・・・っ、うんまっコレッ」

「だろぉ?こっちの煮つけも旨いんだ。食べて食べて」

 

 

煮つけの味も薄過ぎず、濃過ぎずちょうどいい加減で食べやすい。

 

 

「大野さん、このやきとり良かったらどうぞ」

 

 

僕も皿を大野さんの方に送り出す。

 

 

「お、いいの?サンキュー」

「・・・って、ちょっと、聞いてんの?大野さん」

「へぇっ?

 

 

ガブリと串に食らいついたところで二宮さんに名指しされ、ガチッと串を噛む音がした。

 

 

「ホラやっぱり聞いてない」

 

 

呆れるように溜め息をついて箸を手にした二宮さんの左手には、あの時の指輪がキラリと輝いていた。