運転中の鬼気迫るしょーちゃんの走りに何度かヒィィと声をあげそうになったけど、しょーちゃんは至って冷静にステアリング操作をして無事に家まで帰って来れた。
エレベーターの階数ボタンや開閉ボタンを何度も連打したり、上昇中は壁に階数表示中のモニターを睨みつけながらずっとつま先を鳴らしてたり、とにかく落ち着きがなかった。
エレベーターが停まって開くと同時に手首を掴まれ、ずんずんと家まで歩いて行く。
やっと家に入ってもリビングまで小走りで連れて行かれ、駐車場からここまでの所要時間も記録更新したんじゃない?
リビングの真ん中でクルリと振り返ったしょーちゃんに、ギュッとハグをされた。
「やり直して」
「え?」
「今日、つーか日付変わってるから昨日か。昨日のここからやり直して」
やり直す?何を?
「ごめん、しょーちゃん。意味が分かんない」
一応ハグされた時に、反射的に僕もしょーちゃんの背中に腕は回したんだけど。
「だからぁ、昨日、ここで俺と雅紀で抱き合ってたよね?そこまではOK?」
「うん」
「俺が途中で寝ちゃったから、続きをやり直したいわけ」
「・・・そ、そうなの?」
「そうなの。だから、ここから続きしてよ。あっ、でもこのすぐ後って・・・。そこは端折っていいや。この後からにしよ」
そう言って、寝室に移動してベッドの上にしょーちゃんが寝転んだ。
そして律儀にモソモソと布団の中に入るところまで再現した。
すごい。この辺り、しょーちゃんの意識はかなり朦朧としていたと思うのにしっかり覚えてる。
「はい。じゃあ、どうぞ」
満足そうに僕を見上げて笑ったしょーちゃんが、後はおまかせと言わんばかりに目を閉じた。
「…………」
僕はそんなしょーちゃんをじっと見下ろしていた。
しょーちゃんが期待に胸を弾ませているのが分かる。
・・・しょーちゃん。僕、時々しょーちゃんが分かんないよ。
どうしたものか、としばらく様子を見てみたけど、僕が続きをするまではこのままでいそうだしなあ。
「雅紀ぃ、早くー」
目を閉じたまま催促してくる。
仕方ない、と短く息を吐いて、続きを再現することにした。
「じゃあ行きますよー」
ゆっくりベッドに腰掛け、しょーちゃんの長い睫毛を眺めて頭を撫でた。
「・・・もう、終わるね。良かったね、しょーちゃん・・・」
「………」
「しょーちゃん・・・」
瞼と唇に同じようにキスをして立ち上がった。
正確には、立ち上がろうとした。けど、立ち上がれなかった。
しょーちゃんが僕の腕を掴んでそうさせなかったから。
「しょーちゃん?」
ゆっくり目を開けたしょーちゃんの目はかすかに潤んでいた。
「・・・ありがと。ありがとう、雅紀」
首に腕を回され、僕はしょーちゃんに抱きしめられた。