「ずっと、雅紀とちゃんと話をする余裕もなかったから、次起きたらちゃんと話を聞こう。雅紀に優しくしよう。て思ってたのに目ぇ覚ましたら家ン中真っ暗だし、雅紀いないし、ハァ!?だよね」
「そ、それは・・・、さっきも言ったし」
「雅紀の優しさなんだろうけど、それは今いらない」
一気に距離を詰めて来たしょーちゃんの顔が目の前に来る。
狭い車内で逃げられる範囲なんて限られているけど、出来る限り後退ってみればすぐに背中に助手席のドアの感触がぶつかる。
「本当はさ、もっと俺は怒ってるんだぞってアピールしようと思ってたんだ。だけど、横で大人しく座って外見てる雅紀見てたら、なんかもうそれでいいかってなってさ」
ミラー越しに見えた僕の悲しそうな顔を見てるのが辛くなった、と話すしょーちゃんの煙草の匂いが、唇は触れていないけどわかる距離。
「俺が今欲しいのは、こっち」
こつん、と額を当てて来て、ふに、と親指が僕の下唇をめくり、人差し指とで挟む。
「・・・・・・キスしてもい?」
言いながら既にしょーちゃんは、少しだけ目を伏せて顔を傾けてる。長い睫毛が目の辺りを掠めてくすぐったい。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・だめ?」
僕がいいよ、て言わないから、上唇同士はもう軽く触れてんじゃないの?ってぐらいの距離で大人しく待てをしてる上目遣いのしょーちゃんの目の中に僕がいる。
僕だけが映ってる。僕だけ。
「ねえ。マジでだめ?」
唇をスルリと撫でて催促してくる。
しょーちゃん。
ねえ、しょーちゃん。
しょーちゃんだけ。
僕にもしょーちゃんだけだよ。
好きなのは、一緒にいてこんなにくらくらするほど好きなのは、
しょーちゃんだけ。
キスも、それ以上のことも、したいのは、
しょーちゃんだけだから。
「雅紀?」
しょーちゃんしか、
好きじゃないから。
この気持ちが伝わりますようにとしょーちゃんの顔をじっと見つめながら、親指をパクッと食んだ。