自宅に戻ってすぐにシャワーを浴びた。

 

シャンプーで泡だらけの僕の頭の中に、さっきの時間が鮮やかに蘇る。

 

 

二宮さんを見る大野さんの柔らかい眼差しと、耳を真っ赤にして照れてる二宮さん。

2人の間に確かな絆が生まれていて、お互いを思いやる気持ちで強く結ばれている。

 

昔、ブライダルフェアで一緒に仕事をした同性カップルのことをふと思い出した。

支え合い、笑い合う姿に見ているこちらまで幸せな気分をもらった。

 

きっと大野さんたちもあんな風になれるだろう。

 

 

そして、しょーちゃんは、いつだって完璧を求められそれに応えるように努力を怠らず、周りの人たちからの信頼も厚い。

 

そんなしょーちゃんが必要としている大野さんが大変なことになろうとしているのを、見て見ぬ振りなどせず、自分の能力を最大限に駆使して少しでも力になろうとしていた。

 

 

この3人はみんながみんな、大事な人を守るために自分に出来る精一杯の事をした。

 

 

 

その点、僕は・・・。

 

 

しょーちゃんが大変なのは見て来て分かってた。しょーちゃんのことを思えば全力で阻止すべきだった。

 

でも、僕がしたことはしょーちゃんじゃなくて、大野さんに追い風を与えることだった。

 

 

 

しょーちゃんは僕に優しくしたいと言ってくれたけど、僕に優しくされる資格なんてないんだ。

 

僕は、僕がしたことをしょーちゃんに告白しただけで、まだしょーちゃんから許されたかどうかも分からない。

 

 

本当は、しょーちゃんが眠る隣で一緒に眠りたかった。目が覚めて、『雅紀』って甘い声で呼んでもらって、キスをして、抱きしめてもらいたかった。

 

 

 

僕も優しくしてもらいたかった。

 

 

 

『雅紀』って呼ぶしょーちゃんの声が好きで、今だって、たまらない気持ちになる。

 

 

「しょお・・・ちゃ・・・」

 

 

ほら、しょーちゃんが僕を求める声を想像するだけで、僕の欲望は動き始める。

 

 

 

 

『雅紀』

 

 

 

 

頭の中のしょーちゃんが屈託なく笑う。

 

 

「ハァ・・・。しょー、ちゃ・・・」

 

 

僕の体を、想像のしょーちゃんの腕が動き出す。

 

 

いつもの動きをトレースする。

 

 

耳。唇。首。肩。腕。背中。胸。腰。脚。そして・・・。

 

 

 

 

 

『雅紀』

 

 

 

 

 

耳元で囁くしょーちゃんの、声。

 

 

「……ッ!!

 

 

ぶるりと身が震えた。

 

 

慌ててシャワーレバーを捻って頭上から強い圧で流そうとする。

 

打ち消すように髪をガシガシと掻いて泡を落とす。ドロリと体を伝うシャンプーの泡と共に僕の中の欲も排水溝に流れていけばいいのに。

 

泡はシャワーの湯と一緒に吸い込まれていくのに、僕の想いは流れて行かない。

 

 

 

 

 

『まさき』

 

 

 

 

 

シャワーの音にかき消されることのないしょーちゃんの声は、鼓膜を震わせる。

 

浴室で何度も聞いたことのあるエコーのかかったその声は僕の右手を奪った。