「大事なもの・・・?

 

 

問い掛けるしょーちゃんに大野さんは、隣にいる二宮さんの手を取った。

 

 

「俺にはカズがいればいい」

 

 

そう言って二宮さんの左手を下から掬いあげて、薬指に唇を当てた。

 

 

「……大野さん、何を・・・」

 

 

蕩けそうな優しい眼差しを送る大野さんに、一言物申そうとした二宮さんはびっくりして固まってしまった。

 

 

「退職届を出す時にな、言われたんだ。早期退職勧奨扱いにしてもいいって。でも、こいつはそのリストに挙がってないだろ」

 

 

そう言って反対の手で二宮さんを指さした。

 

 

「だから、退職金は2人とも通常でいいから、ニノも一緒に辞めさせてくれ、て言ったんだ」

 

 

呆気にとられるしょーちゃんと僕と二宮さん。

 

それって、そんな簡単に受理されるものなの?大野さんはともかく、二宮さんは絶対慰留させられるでしょ?

 

 

「だっ・・・、え、でも、そんな・・・、え?そんな簡単に二宮、辞めれます?普通」

 

 

しょーちゃんは半ばパニックになりつつ、なんとか正気を取り戻して質問する。

 

 

「普通は無理だろうけどな。まあ、退職金が通常でいいって言ったからじゃない?

 

 

あっけらかんと言ってのける大野さんだけど、絶対他に理由があると思う。

 

 

だって大野さんがいなくなったあと、引き継げるのは二宮さんでしょ?

 

2人が一気に抜けたら、大変なことになるのは僕にだって分かるよ。

 

 

「・・・あ。…先代のところで」

「なに、二宮。先代って?

 

 

何かを思い当たった二宮さんが呟き、すぐにしょーちゃんが反応する。

 

 

「俺、大野さんと先代に会いに行ったんだ。そこで、2人でなんか約束してたとかなんとか言ってた・・・。ね、大野さん、それがそういうこと?

「まあそうだな」

 

 

道理で・・・、と二宮さん自身も退職届を提出に行ったときにいくらなんでもスムーズに事が運びすぎると訝しんでいたらしく、その理由が判明してスッキリしたみたいだった。

 

 

「悪いな、翔くん。そういうことだから、カズは俺のだ」

 

 

大野さんが二宮さんを抱き寄せながら、しょーちゃんを牽制する。

 

 

「え、しょーちゃん。二宮さんのこと・・・?

 

 

そんな目で見てたなんて初耳ですが?

 

 

「櫻井?

 

 

二宮さんも嘘だろ?って顔で、3人が一斉にしょーちゃんを見た。

 

 

「違っ、俺は雅紀が・・・っ」

 

 

めちゃくちゃ慌ててしょーちゃんが否定しようとして、ハッとする。

 

今まで僕としょーちゃんの関係を誰かに話したことなんてない。

 

気づいたしょーちゃんが大野さんを見ると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

「カズが俺を自由にしてくれた。翔くんには相葉ちゃんがいてくれる。だからこそ今このタイミングなんだ。点が線になって、総ての縁が、全部、ぜんぶ繋がってんだ」

 

 

点が、線になる。

 

 

すべての縁がつながる。

 

 

この言葉がなぜか僕の心にグッと来た。

 

こころの奥の方に、沁みてきた。

 

 

「なあ。俺はお前に面倒ばっかりかけて苦労もさせると思う。だけど、絶対最高の景色をお前に見せてやるから、最期に後悔はさせないって約束する。だから、ずっと一緒にいような」

「ばかじゃないの・・・っ」

 

 

大野さんは二宮さんのふわふわで可愛い手をギュッと握り締めて、まるで誓いの言葉みたいな台詞を口にした。

 

 

二宮さんは、口をと言うより顔を、肘で隠すみたいにして何かを我慢するみたいに震えている。

 

だけど耳まで真っ赤に染まっている二宮さんがどんな表情をしているかなんて、見なくても分かる。

 

 

きっと幸せいっぱいに違いないんだから。

 

 

 

 

 

それまでふるふるしてた二宮さんが急にピタッと動きを止めた。

 

どうしたのかな?と思ったら、勢いよく顔を出して大野さんが握っていた方の手を広げた。

 

 

「え」

 

 

思わず声が出たのは僕だけで。

 

二宮さんはまた固まってるし、しょーちゃんは視線が二宮さんの手に釘付けになってるし、大野さんは普通に見てる。

 

 

可愛い掌にころんと乗っかってるのは・・・指輪?

 

 

「大野さん、これ。さっきの台詞といい、まるでプロポーズみたいじゃないですか」

「・・・みたいじゃなくて、そうなんだよ」

 

 

しょーちゃんが二宮さんの手を指しながら言うと、大野さんは固まったままの二宮さんの左の薬指にそれを嵌めた。

 

 

「ありゃ、ちょっと大きかったか」

 

 

まあいいや、なんて勝手に納得して付け根でくるくる回る指輪を撫でた。