体を起こしたしょーちゃんの拳が震えてる。
俯き、大野さんたちに背を向けて瞳を潤ませ、唇を噛み締めてる。
僕はしょーちゃんの隣に寄り添い、その背中に手を置いている。
悔しいよね。言えたらどんなに楽か。
しょーちゃんには、守秘義務があって話せない。
勿論僕は部外者だから、本来知っていてはいけない。だから知っていても何も話せない。
二宮さんと大野さんは、水面下で起きていることを知るはずもない。
知らない、はずだった。
なのに。
「俺の名前は最終候補にあったか?」
同じように僕らに背を向けるように二宮さんを座らせ、背中を摩っている大野さんが顔をこちらに向けて言った。
しょーちゃんの体が激しく揺れて、大野さんを振り返った。
「なん・・・で・・。大野、さん・・・知って・・・?」
信じられないといった顔をして声を震わせるしょーちゃんに、大野さんは微笑んだ。
「最終候補って、なんの?」
二宮さんも大野さんに支えられながら、ゆっくりと身を起こした。
「そうき、たいしょく、かんしょー、ってことは・・・、早く辞めてもらうってこと?なんで大野さんが?大野さんはまだまだ先のことでしょう?」
単語の意味を噛みしめるように呟きながら二宮さんが大野さんの方を見る。
そうだよね。僕らの年代はこれから主戦力になっていく世代のはずだもんね。ましてや優秀な大野さんなら会社が手放すはずないと考えるのが当たり前だよ。
だから、しょーちゃんは必死になってたんだよ。
大野さんは絶対会社に必要な人だから。これからのホテルを支えていくのに欠かせない存在で、しょーちゃんにも二宮さんにも大切な人だから。
そんな人を早期退職勧奨の調査対象者としてみなさなければならない。
自分にそんな責務を課されたことを、二宮さんにも大野さんにも、誰にも相談できずに、独りで重責に耐えてたんだ。
目の前でボロボロになってくしょーちゃんを見てるのが辛かった。
しょーちゃん自身もわかってた。
大野さんが絶対的に不利な事。
調べれば調べるほど、大野さんが該当していってしまう。
勤務態度を改めるよう通告すれば、勘の良い人なら自分が調査対象者であることがわかってしまうから、それは禁じられているとしょーちゃんは言ってた。
同僚を庇う為にこっそりと通告してる人はいるけど、極秘裏に動いてるのは一人だけじゃないから気づいてないところで評価は進んでいて、その場だけ改めても意味がないんだって。
だからしょーちゃんが調査を諦めたって、結局他の誰かがやるんだ。そうしたらもっともっと不利になるんだ。
だからこそ、少しでも大野さんに有利に事が進むように、でも絶対に最後までは諦めないと闘ってたのを僕は見て来たんだ。
大野さんには知られないようにって。
だけど。
だけど大野さんは・・・知ってた?
じゃあ、じゃあしょーちゃんは何のために・・・。
「ごめんな、翔くん。俺がもっと早く言えば良かったな」
しょーちゃんを見てみると、茫然と大野さんと二宮さんを見てた。
その大きな瞳からボロボロと涙を零して。