しょーちゃんがみんなの分のコーヒーを入れてくれて、それぞれの前にカップを置いた。

 

ソファに座ったままの僕の隣に二宮さんが座って、二宮さんの向かいには大野さんが、僕の向かいにしょーちゃんがフローリングに直で腰を下ろした。

 

全員が座ったことで、二宮さんが気づいたきっかけを話し始めた。

 

 

 

僕がファミレスで席を立った時に携帯をソファーに落としていて、それに気づかないままトイレに行ってる間に電話が鳴ったらしい。

 

最初に鳴った時は二宮さんも気づかなかったそうで、一度は切れたものの二回目に鳴った時に目の前のソファーから聞こえていることに気づいて拾い上げたけれど、相手が分からないように裏を向けてテーブルの上に置いた。

 

その内切れたものの、またすぐに鳴ってしばらく鳴り続けるから仕方なく持ち主は今不在だと告げて電話を切ろうとしたのだと二宮さんは話した。

 

 

「はい。こちらは相葉くんの携帯電話ですが、今本人が不在なので後で掛け直してもら」

『・・・二宮?

!?

 

 

相手に口を挟む猶予を与えず一気に捲し立てて電話を切ろうとした時、電話の向こうの相手に自分の名前を言い当てられて焦ったと言う。

 

慌てて電話を耳から離して思わず確認した画面には『しょーちゃん』と表示されていて、二宮さんは以前にも同じファミレスで僕の電話にかかってきた相手と同じことに気がついた。

 

 

『今の声、二宮だろ?なんで雅紀の電話におまえが出るんだ?・・・おい、二宮。にの・・・』

 

 

ぶつっ。

 

 

次の瞬間、指が終話ボタンを押していて、携帯を落としたことに気づかぬままレジへ向かった僕に携帯を手渡した。

 

 

まさか二宮さんとしょーちゃんが会話しているとは思っていなくて、僕は驚いた。

 

二宮さんはその事も僕に話していたらしいんだけど、その時点で僕は二宮さんにしょーちゃんとの事がバレたことに意識を持って行かれてて、その後の会話を憶えていなかった。

 

二宮さんにバレたことがしょーちゃんにバレるのも時間の問題だと考えて僕は先にしょーちゃんにバレたことを話そうと思っていた。

 

そのつもりでここに来たのに、しょーちゃんの顔を見た途端そんなことは一旦、全部吹っ飛んでしまってしょーちゃんから話を振られるまですっかり忘れてしまっていた。

 

 

「翔くん。今回のことは全部こっち側の問題で、相葉ちゃんはそれに巻き込まれただけだ。相葉ちゃんは悪くない。だから責めないでやってくれな」

「いや、俺は責めるつもりは・・・」

 

 

大野さんの言葉にしょーちゃんはどこか歯切れの悪い返事をした。

 

 

「ニノも悪気があったわけじゃなくて俺のことを思ってやってくれたことで、俺がうだうだやってたのが原因なんだから、もっと早く決断すべきだった」

「そうだ。大野さん、なんで今なんですか。どうして・・・」

 

 

大野さんの言葉にハッとしてしょーちゃんは大野さんを見た。

 

 

「もう少し、あと一週間だけ待ってくれれば、そしたら・・・」

「一週間?

 

 

しょーちゃんの言葉に反応したのは大野さんではなく、二宮さんだった。

 

慌てて口許を手で隠すしょーちゃんに、二宮さんは鋭い視線を投げた。

 

 

「一週間て、ナニ?

「ニノ」

 

 

視線を合わせないしょーちゃんに、視線を逸らそうとしない二宮さんを大野さんが窘める。

 

 

「なんだよ櫻井。言えよ」

「ニノ」

 

 

ゆらり、と立ち上がった二宮さんがゆっくりしょーちゃんに近寄って行く。

 

大野さんが止めようと肘をつかんだけれど、それさえも振り払う。

 

 

「・・・・・・・・・」

「一週間てなんだって聞いてんだよっ!答えろよ櫻井ッ!!

 

 

しょーちゃんの目の前で跪いた二宮さんは、そのまま胸ぐらを掴むと激しくしょーちゃんを揺さぶった。

 

 

「っ!!

「止せっ!!ニノっ!

「答えろやッ」

「やめてぇっ!しょーちゃんっ!!

 

 

それまで苦し気に眉を顰めていたしょーちゃんは大きく目を見開き、激高する二宮さんを後ろから引き離そうとする大野さんと、怒号する二宮さんに向かって二人の間に割って入る僕の悲鳴とが入り交った。

 

 

羽交い絞めにして二宮さんを上に背中から転がる大野さんと、しょーちゃんの頭を抱きかかえてしょーちゃんを下にして転がる僕とでようやく二人が離れ、四人それぞれの乱れた呼吸音だけが聞こえる。

 

顔が見えないしょーちゃんが荒い息を繰り返す音が耳元で聞こえる。

 

 

「・・・しょおちゃ・・・、しょおちゃ・・・」

 

 

ハァハァと息をする間に消え入りそうな声で泣きながら何度も名前を呟くと、腰に添えられた手がギュっと僕の服を掴んだ。

 

その手は震えていた。

 

 

「しょーちゃ・・・」

 

 

僕はもう一度しょーちゃんを深く、強く抱きしめた。