二宮さんと別れてから、しょーちゃんに話したいことがあるからしょーちゃん家で待ってるとメッセージを送った。
夕方、しょーちゃんから今から帰ると連絡が来て、そこから帰ってくるまでソワソワ落ち着かなくなって、部屋の中をウロウロ歩き回っていた。
玄関のドアが開く音が聞こえた瞬間、僕は出迎えに向かった。
「しょーちゃんっ」
「…ただいま」
「おかえり」
いつもどおり玄関まで出迎えたけれど、元気のない声としょーちゃんの顔色の悪さが気になった。
「…どうしたの、しょーちゃん?なにかあった?」
その姿に不安になった僕は、慌てて頭を抱えこむようにしてぎゅっと腕を回したら、力なく僕の腰に腕が回された。
しょーちゃんは抱きつきながら、ポロポロとこぼれるような片言で話し出す。
「・・・今朝、出勤、したら、…昨日、…大野さんが、退職届、出した…って。二宮も、一緒に、って」
昨日!?だって僕は今朝、二宮さんと会ったのに。その時に何も言ってなかった。
あの時点でもう退職届は提出されてたってこと?
じゃあ、僕が答を出す前にもう決まってたんだ。
二宮さんからどこか清々しさを感じていた僕の勘は間違っていなかった。
そうか…。
二宮さんは、僕が断ると思ってたって言ってたし、引き受けたとしても断ろうと思ってたって言ってた。
つまり、僕が引き受けようと断ろうと、二宮さんたちがホテルを辞めることは変わらなかったんだ。
「そんな・・・」
しょーちゃんが今まで奔走していたのは一体なんだったのか。
寝ている時でさえ、寝言に出るぐらい引き留めることに必死だったのに。
「しょーちゃん・・・」
自分の体の震えを抑えようと、抱きしめる腕に力が籠る。
だけど・・・。
だけど、今回は結果的に僕のことは関係なかったけれど、僕がしようとしたことは大野さんの独立を後押しすることと代わりない。
偶然規律違反になるから協力はできなかったけれど、もしもそうじゃなかったら、僕は協力していたかもしれない。
ううん。
協力、してた。
「しょーちゃん、ごめん。ごめん、しょーちゃ・・・」
僕も、同罪だ。
「まさき・・・?」
「ごめ・・・っ」
「ん。雅紀、苦し・・・っ」
背中を強くタップされて、頭を強く抱え込み過ぎてたことに気づいた。
「あっ!ごっ、ごめんっ!!」
慌てて両手を放してしょーちゃんの頭を解放する。
「ぷはぁっ!・・・あー、びっくりした」
「だ、だいじょぶ?息できる?」
ハンズアップの体勢のまま首を傾けて、しょーちゃんの様子を確認する。
しょーちゃんはくりくりの目を更にくりくりにして大きく呼吸を繰り返した。