ターンしてと言われれば、ターンした。
座ってと言われれば、座った。
右見てと言われれば、見た。
笑ってと言われれば、笑った。
全部言われた通りにやった。
やった、のに。
今回のカメラマンはいい出来だと褒めていたけれど、僕にはそうは思えなかった。
大野さんが撮れば、もっと『こう』なのに。
大野さんなら、『ああしてくれる』のに。
大野さんは『そうはしない』のに。
大野さんだったら『どうする』かな。
大野さん。大野さん。大野さん。
全部、大野さんに『して欲しい』のに。
腕の悪いカメラマンでは決してなかった。僕らのことも考えながら撮影してくれる腕の良いカメラマンだったと思う。
ただ、僕は、僕にとっての最上級の人を知ってしまったから。
僕の一番良い瞬間を撮ってくれるカメラマンに出逢ってしまった。
ごめんなさい。
僕は心の中でカメラマンに謝った。
しょーちゃんにも謝った。
大野さんにも謝った。
謝りすぎて、誰に謝ればいいのか分からなくもなった。
ずっと揺れてた。
朝になると大野さんに詫びて、撮影後はカメラマンに詫びて、夜眠るまではしょーちゃんに詫びて。
その度に心の中に澱が溜まるみたいに、気持ちが澱んでいくのも自覚した。
しょーちゃんの為を思えば、大野さんを止めなきゃいけない。
大野さんがどうしたいかを知っているから、止めなきゃいけないのが苦しかった。
止めても、止めなくても、どっちを選択したって結局僕は後悔する。
そうやってずっとぐるぐる同じところをさまよっていたって何も解決しないから、
相談したいことがあって事務所に連絡した。
何時間もかけて話し合った。
それでやっと、僕の気持ちが固まった。
二宮さんを待たせた答がやっと出せた。
「すいません…。保留しておきながら、良い返事が出来なくて…」
期待に応えられたら良かったと思うけど。
「…相葉くんなら、そうすると思ってた」
二宮さんは目を伏せて、手元のグラスをストローでかき混ぜて、カランと軽い音を立てて氷を鳴らせた。