ふと前方からの視線を感じ見てみると、何か言いたげな表情の櫻井が俺と大野さんを凝視していた。
「なに、櫻井」
「え、あ、や…、なんか俺の気のせいかもしれないけど大野さんと二宮の雰囲気が違うっつーの?なんつーの?ただの先輩後輩って関係とはちょっと違うみたいな感じ?って言うか。…ハハッ、ごめん。なんか俺変なこと言ってるよな…」
俺の問いかけに櫻井は自分でも何が言いたいのか上手く説明できないみたいで、もどかしそうに後頭部をガシガシとかいた。
「親密な感じがするってこと?」
「んー、親密って言うか…、まぁそう言えばそうなんだけど…」
「遠回しに言わなくてもいいよ別に。要は俺らが恋人同士に見えるんだろ。合ってるよそれで」
少し言葉を濁して言った俺と、それに近い感覚であると認めようとした櫻井に対し、大野さんはズバリと核心をついた。
あー、言っちゃったよ。この人。
俺はテーブルに両肘をついて両手で顔を覆った。
何のために俺と櫻井がニュアンスで理解しようとしたのか。
ここが公共の場であり、職場からさほど離れていない場所であることを考慮して敢えてぼかした発言をしたと言うのに。
どストレートに言いやがった。
片方の手で大野さんの腕を叩いた。
「イテッ!なんだよ、ニノ。叩くなよ」
だけど相変わらず『相葉ちゃん、相葉ちゃん』な大野さんが面白くなくて、ちょっとだけイジワルがしたくなった。
「俺も有休取って、どこか行こうかな。相葉くんみたいに南の島がいいかな。日々の喧騒を忘れてゆったり過ごせば気持ちも変わるのかな。非日常的な空間にいることで大らかになるって言うし、開放的な気分になって大胆にもなれるって言うじゃない。新しい出会いもあるかもしんないし。…ふふ、いいかもしれないなぁ」
「ニ…ニノっ!?おまえはダメだぞ!絶対行くなよっ」
思いを馳せるような遠い目をして白々しいセリフを口にしてみると、大野さんが分かり易く狼狽える様子を見せ、爆笑する自分をどうにか心の中だけに押し留めた。
ちょっとだけスッキリしたかも。
唇を尖らせて叩かれた腕を摩る姿を横目に櫻井の方へ視線を戻すと、柔らかな眼差しで俺たちを見ていた。
「な、なに?」
「いや…?嬉しそうだな、と思って」
「は!?なに言って…」
頬杖をついて微笑む櫻井は、でもどこか寂しそうで…。
「羨ましいな、おまえが」
儚い微笑の後、目を伏せた櫻井は、腕時計に視線を移した。
…櫻井?
「さ…」
声を掛けようとした時に注文した料理が運ばれて、タイミングを失った。
「すいません、俺、先に戻ります」
「おー。じゃあまたな」
「………」
「はい。二宮も、またな」
立ち上がり、俺の横をすり抜けるときにポンと肩を軽く叩いた櫻井の手には伝票が2つあって、レジで店員と二言三言会話を交わして店を出て行った。