「ニノー、テレビつけて」

 

「あ、うん」

 

 

風呂上がりにタオルを首にかけてリビングに戻り、ソファーでくつろぐニノに頼むと

ローテーブルに置かれたリモコンを手にして、こちらが言わずともお決まりの番組を映してくれる。

 

テレビを流し見しながら冷蔵庫を開けてビールを取り出す。

 
 

 

気象予報士が明日の大寒波の到来を告げて、25日の都内は平成始まって以来の最低気温だと言った。

 

 

マジか…」

 

「うわあ…」

 

 

現時点でも地方によっては積雪がえげつなくて、映像を見て2人で軽く引いた。

 

 

「日本でこれだったら、あっちはどんだけ寒いんだろね」

 

 

先に風呂に入って、俺の部屋着に着替えた萌え袖のニノが両手を口許にやって呟いた。

 

 

「どうだろうなあ。まあ相当寒いんじゃねぇか?」

 

 

防寒対策を怠るとエライ目に遭うのは学習済みだから、今回は準備万端だけど。

 

そうこうしてる内に0時を過ぎて、スマホが連続して鳴り出した。

 

 

一年に一度だけ起こるこの現象は、俺の誕生日を祝ってくれる人たちからの連絡で、

どんどん緑のアプリに数字が溜まっていく。

 

 

「はいはい、っと」

 

 

冷蔵庫の扉を閉めて、ソファーまで行ってビールを差し出せば、『ありがと』と袖からちょこんと出たまぁるい指先がそれを受け取る。

 

落とさないようしっかり持ったのを確認してから自分の手を離し、スマホに手を伸ばす。

 

緑色のアイコンをタップしてグループトーク画面を開けばお馴染みのメンバーからの祝福のスタンプとメッセージが表示され、

 

 

 

今年の一番は…。

 

 

 

ニノ。

 

 

 

 

『誕生日おめでとう。エルサ櫻井』

 

 

 

 

某番組スタッフによって名付けられた俺の別名。

 

 

 

おまえ…。

 

 

目の前に俺がいるのに、わざわざ送らなくても直接言えばいいのに…。

 

 

一口ビールを飲んで横目にニノを見れば、そしらぬ顔でテレビを見ながらビールに口をつけている。

 

 

「なに?」

 

 

視線に気づいたニノが、ソファーの横に立つ俺を上目で見てくる。

 

 

「…なんもねぇよ」

 

 

視線を逸らしてビールを飲んで誤魔化した。

 

 

 

 

素直じゃない俺のコイビトは、なかなか本音を言わない。

 

 

だから、俺もイチイチ聞かない。どうせはぐらかされるしな。

 

 

無言でわずかに空いたスペースに座ろうとすれば、スッとその分を空けてくれる。

 

隣合って座ってビールをテーブルに置いてニノを見る。

 

ニノは俺の視線など気にとめる様子もなくテレビを見ている。

 

けど、だんだん赤くなる耳がそれがフリなんだと語っている。

 

 

なぁ。

 

 

ニノ。

 

 

たまには素直になってもいいんじゃね?

 

 

天邪鬼なコイビトは、基本的に自分から進んでしたい事を言い出さない。いや、言い出せない、かな。

 

 

そのくせ誘わせるのは上手いってどういうことだよ。

 

 

結局こちらから提案するという形に仕方なしに乗っかるという体がデフォルト。

 

 

まあ俺からすれば、最終的に来てくれれば問題はないから、それで構わないんだけどね。

 

 

今日だって、俺の誕生日を祝いたいオーラを出してたのにみんなの手前素っ気ない態度をとるから俺から誕生日を一緒に迎えたいから家に来て、とお願いした形になったし。

 

もしこれがニノの態度を真に受けて別の誰かの誘いに乗ったら、ご機嫌を損ねて後が面倒くさいことになるんだ。

 

 

 

 

さっきから、チラチラとニノが俺の方を見てる。何度もあくびを噛み殺しているけど、実はそれもフリ。

 

実のところは俺と一緒に寝室に入りたいんだ。

 

 

「ニノ」

 

「なんですか?」

 

 

素直に抱かれたいと言えない可愛いコイビトの為に、俺は今日も懇願する。

 

 

「明日は寒いみたいだから一緒に寝てもいい?」

 

「…しかたないですねえ」

 

 

ニノは頬杖をついて呆れたような表情で、そんなつもりなかったのにななんて呟きながら、目や口よりも饒舌な真っ赤な耳で俺の願いを聞き入れるふりで本懐を遂げるんだ。

 

 

どんな理由だろうと、お互い願いが叶うならそれでいいんだよ。

 
 
エルサだって発動しちゃう、そんなPerfect Night。
 
 
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