僕の名前は相葉雅紀。

 

 

 

職業はブライダルモデル。

 

 

 

 

挙式場の模擬挙式や披露宴での新郎役や、新郎衣装のカタログモデル、

 

国内外での新作衣装発表会でのショーモデルが主な仕事。

 

 

 

 

クリスマス前のこの時期はどこの式場もブライダルフェアに力を入れていて、

 

った演出や企画のあの手この手でカップルの気を引こうと必死だ。

 

週末ともなれば特に気合の入ったフェアが多く、

 

一度にたくさんのモデルを用意して集客に力を入れている。

 

 

人気の高いモデルは一日に何か所ものショーに参加していて、

 

有り難いことに自分もいくつかの式場から声かけを頂戴している。

 

 

 

 

12月24日の今日も僕はショーモデルとして、

 

とあるホテルのナイトブライダルフェアに参加している。

 

ホテル内設営のチャペルで今日最後の模擬挙式を終えて、

 

ヴェールをあげた同じくブライダルモデルの新婦役の女性とバージンロードを

 

渡り終え、ドアの前で深々とお辞儀をしたところで扉が閉まった。

 

 

 

「お疲れ様でした」

「お疲れ様でした~ぁ」

 

 
 

 

頭をあげて、組んだ腕を解きながらお互いに労をねぎらう。

 

 

 

「相葉さん、この後は予定あいてますかぁ? ごはんでも行きません?

「あ~…」

 
 

 

 

大きく胸の開いたデザインのドレスを着たモデルが、

 

先ほど解いた腕をもう一度絡ませて胸を押し付けてくるような仕草をする様子を

 

一瞥した。

 

 

 

「…相葉さん、1番どうぞ」

 

 

 

女性からの食事の誘いを断りあぐねているところに、スッと間を割って

 

声をかけてきたのは櫻井さん。

 

ここのホテルのブライダル部門のマネージャーだ。

 

 

1番とは隠語で食事休憩のこと。

 

 

 

「ありがとうございます、櫻井さん。相葉、1番入ります」

 

 

 

櫻井さんはメガネのブリッジに手をかけて位置を調整していて視線があわないけど、

 

一瞬だけ掠めるように視線が交わり、会釈をして、

 

女性モデルには夜は予定があるからと断りを入れて休憩室へ向かった。