広がれ、繫がれ、お友達の輪 秋の十五夜祭りでぃ!






リオから帰国したばかりなのに、定期週録以外にも立て続けに入ってくる取材や生番組出演などのハードスケジュールをこなし、
僅かな休憩時間でさえ、愛しい人との逢瀬に時間を割く彼に、スタッフに呼ばれた相葉さんが部屋を後にした時、ようやく束の間の休息時間が与えられた。
それでもしばらくは新聞に目を通したり、携帯を手にしたり情報収集に暇(いとま)なくしていたが、ここへきて限界が来たのだろう。
ソファの背に身を預け、目をつぶって天井に向かって深い息を吐くと、そのまま静かな寝息をたて始めた。
左手は腹の上、右手は携帯を持ったままだらりと力なく垂れ下がる。


「・・・ったく。頑張りすぎなんだよ、あなたは」


化粧で多少誤魔化してはいるが、顔色の悪さは完全には隠しきれていない。
と言っても、傍目にはバレない程度だ。これは付き合いの深い俺たちだからわかること。

手の甲でそっと頬に触れてみる。少し肌も荒れているようだ。
いくら体が慣れているとはいえ、昔と違って、体力の衰えと疲労回復までに費やす時間は反比例している。


「もう、あんまり若くないんだからさ」


頬にあてた手をすりすりと往復させてみても微動だにしない。
右手からそっと携帯をはずしてテーブルに置いて、右手は左手の上にそっと重ねてやる。

身動ぎひとつしないとは、完全に爆睡だな・・・。
7月から8月にかけて、長時間の歌番組、ツアー、オリンピックと全力でひた走ってきた彼に
9月になってようやく息つく時間が出来たのだから当然と言えば当然か。



その時、シャッター音が小さく鳴った気がして顔をあげる。


「・・・何、してんの?」


こちらに向けられた携帯越しに睨みをきかせる。
それさえも、カシャカシャと連写で撮り続けられる。

無言で近づき、カメラのレンズ部分を塞ぐように携帯を握る。


「何してんのか訊いてんだけど?ニノ」

「えー?翔やんの浮気現場を激写して、相葉さんに見せてあげようと思って」


悪びれる様子もなく、くすくすと笑いながら、さりげなく携帯を自分の手元に戻す。


「ねえJ、取引しようよ」

「取引?」

「ワタシは相葉さんが欲しい。Jは翔やんが欲しい。だから、二人を別れさせて、我々が
その後釜に上手いこと乗っかればいいってこと」

「はァ!?何言って・・・。正気でそんなこと言ってんの?」

「本気だよ。Jだって、二人が別れればいいのに、て思ってるでしょ? 
ワタシ、もうこの二人見てるのも限界なの」

「そんなこと・・・」

「そんなことない?こんな顔して、この人のこと見てんのに?」


そう言って、今撮ったばかりの画像を見せる。


俺、こんな顔してた・・・?

そこには、瞼を閉じて眠る翔さんにそっと触れている俺がいた。
満足気に微笑むような表情をして。


「こんな顔してさ、まだバレてないと思ってんの?」

「・・・えっ」


まさか、リーダーや相葉さんに・・・。
一瞬、最悪の状況を想像してしまう。


「大野さんも相葉さんも、翔やんもまだ気づいてないよ。ワタシだけ」


その言葉に安堵の息を吐く。

リーダーはともかく、二人に気づかれるわけにはいかない。


「そんなこと、俺は・・・」

「望んでないって?よく言うよ。あんな顔しといて」


ニノは、俺が翔さんに特別な感情を抱いていたことを知っている唯一の人間だ。
始めはインプリンティングによる思慕だったけど、それが恋慕と気づいた時には、
もう翔さんは相葉さんのものだった。

返す言葉もなく、グッと唇を噛みしめる。


「Jが変わろうとしたのは翔やんのためでしょ?」

「な・・・っ」


その時だった。


「・・・ん」


眠っている翔さんが身動いだ。
俺たちの話し声で眠りが浅くなり始めたようだ。
せっかく眠れてるんだ。まだ起こしたくない。
唇の前で人差し指を立てて、ニノにアピールする。


「しっ。ニノ、この話はあとだ。今日はもう終わりだろう?場所移そう」

「どこへ?」

「そうだな、俺の家・・・いや、ニノん家の方がいいな。行ける?」

「ワタシの家ですか?・・・まあ、いいですよ」


腕時計で時間を確認すると、既に遅い時間を差している。これならうちに来るより、ニノの家に行く方が、話が長引いた時にニノはそのまま眠れるだろう。
疲れた体を引きずって自分の家に帰るのはキツイからな。
そして、今日の仕事を終えて二人でニノの家に移動した。