有栖川有栖5/5
第5章 【作家を目指す人たちへ】
有栖川有栖氏×中山市朗氏
中山:日本って作家を目指していると言う人が非常に多くないですか?
有栖川:多いですね。一つは日本の社会が非常に開かれているからだと思うんです。私はイギリスのミステリーが大好きだったんですけど、イギリスのミステリーを読み終わった後、巻末に作者のプロフィールが載ってますよね? あれを見てうんざりする事があった。
中山:と言うのは?
有栖川:みんな前職や本職が立派なんですよ。例えば大学教授やジャーナリストとかばっかり。親も同様。私は鉄工所の息子なんですけど、日本の場合は作家の前職の実家が何かなんて千差万別でしょ?
中山:そうです。
有栖川:お父さんが大工さんの人から、外務省勤めてた人から、板前さんから、商売している人から本当に人それぞれなんです。そういう意味で日本は社会がとてもオープンです。もし私がイギリスに生まれていたら、絶対に作家になれてないですよ。階級が違いますから。
中山:ヨーロッパは格差社会ですからね。
有栖川:歌手でもそうじゃないですか? 凄くいい家のお嬢さんもいれば、貧しかったですって言う苦労話する歌手もいれば、はたまた小澤征爾の甥までいる(笑)
中山:おりますなあ(笑) それと日本は割りと言いたい事が言えますね。細かく言うとあるんですけど、これ書いちゃいかん、あれ書いちゃいかんと言うタブーがそんなにないじゃないですか?
有栖川:宗教的タブーは少ないですね。
中山:日本には本当に、作家になりたいと言う人がたくさんいうんです。昨日も参考までにとネットで作家になりたいって言う人を調べたら山ほど出てきました。
有栖川:私はね、作家になりたいと言う人の気持ちはすごくわかりますよ。十一歳から二十九歳まで作家になりたかった人間ですからね。十一歳からって長いですよ。人生一個分ぐらいあるかもしれません。
中山:でも一番多感な時期で、いろいろ遊びたい時期でもありますね。
有栖川:小学生から二十九歳までと言う事は十代、二十代のほぼ全てですから。だからこそ作家になりたいと言う人の気持ちはとてもよくわかります。
中山:なれると言う確信はありましたか?
有栖川:逆ですね。作家になりたいと思いつつも多分なれないだろうと思っていました。
中山:そうなんですか。
有栖川:俺は絶対作家になれると言う人間がいたらおかしいと思うんです。ちょっとそれ君自信ありすぎやでと思いません? 例えば野球選手だったら、俺は甲子園の優勝投手なのにプロ野球入れへんわけがないとは思うと思うんですけどね(笑) 作家の場合、俺が作家になれないはずはないと確信を持っていると言う人は滅多にいないと思います。よっぽどの人じゃないとね。
中山:これは僕が専門学校の講師をしている時からそうだったんですけど、作家になりたいと作家コースに入ってくる人間で書かない人がいるんです。なんで書かないの? と尋ねたら、書く事がないんですよと答えるんです。
有栖川:それはよくわからない。共感はできませんね。作家になりたい。でも上手く書けないとか、そういうのはわかりますけど、なりたいと言っているのに書いた事がないって言う人の気持ちは私にはわかりません。
中山:まったくその通りですよ。
有栖川:なぜなら私はそういう段階がありませんでしたから。作家になりたいって言う前にもう書いてましたからね。それは十一歳だったから遊びで書けたんでしょう。さていかに何を書くべきかと言うのも別になく(笑)
中山:なるほど
有栖川:未だに原稿用紙が白紙のままって言うのがよくわからないんです。気がついたら書くもんだろと、書いてるやつが作家になるんだろうと思うんですけどね。
中山:そうなんですけどね。そういう人もやっぱり塾や専門学校に来て作家になりたいって言う。
有栖川:そういう人ってもしかして作家って言ったら格好良い仕事って思ってるんじゃないですか?
中山:そうなんですよ。だから小説家、作家と言う肩書きに憧れてるだけなんですよ。
有栖川:嫌な人と会わなくていい。外へ出なくても、家にこもりながらでも書けるし、まあ引きこもりって積極的にやるなら楽しいですけどね(笑)
中山:楽しいですね(笑)
有栖川:あとは綺麗な仕事って言うイメージ。汚い物を触ったり、危ない事したりとかしなくても良い。映画になったりとかね。一攫千金の可能性もある。そういう意味で作家って言う職業はイメージがいいから憧れる。
中山:そういう人は多いんですよ。
有栖川:しかも自分は内気で対人関係に弱いって人は特に憧れがちだと思うんです。それはよくわかります。でも書いた事がないんだったら無理ですよ。それは水泳選手になりたいのにプールに入れないのと一緒ですから、無理ですよ。
中山:私も書かない作家志望者には、そういうことを言うんですけど。
有栖川:とにかく書くことです。話はそれから。いいことばかりではないけれど、作家ってなってみると楽しいですよ。朝早く起きんでもいいし(笑)
中山:またそこに戻りますか(笑)





