午前10時
わたしは
歩きなれない
道を歩く
1時間前
彼は
ベッドの上に座る
わたしの唇に
そっと唇を押しあて
慌てて
出かけて行った
キッチンにたまった
食器を洗い
部屋に置手紙をして
わたしは
彼の部屋を出た
マンションを出て
まず
周りを見渡す
魚籃坂
ここがどこなのかを
確認し
自宅の方向へ向かって
歩く
知らない場所じゃなくてよかった
家まで歩いて帰れる場所だ
午前4時
酔いがまわり
眠くてふわふわしている
わたしの手を引いて
彼は
自分の部屋まで
連れて行ってくれた
服を着たまま
二人
ベッドに横たわり
身体を寄せ合い
手の指を絡ませ
眠った
何度か目が覚め
そのたびに
わたしは彼の顔を確認する
彼は
わたしの
髪を
優しく撫で
わたしの頬に
そっと手をあて
わたしの唇を
ゆっくり指でなぞる
わたしは
子供のように
安堵し
眠りにつく
あたたかく
いつまでも
こうしていたい
たった数時間前に
出逢ったばかりの二人
ずっと前から
知っていたかのような
温もり
絡ませた指は
どれが
自分の指なのか
わからなくなるほど
ぴったりと重なる
わたしを
大切に寝かせてくれた
あなたは
きっと
ほとんど
眠っていない
慌てて起きて
仕事へ出かける
支度をする
一緒に
起きようとする
わたしに
まだ寝てていいよ
と
唇を押しあて
微笑んだ
一人
部屋を見渡す
そこにあるのは
優しさだった
@sakigokochi