雄星の耳たぶは小さく、遥斗は緊張した。


「遥斗、くすぐったいよ。早くして」


「待って、じっとして」


遥斗がぐっと指に力をこめると、バチンという音が響く。


雄星は痛いとは言わず、小さく息を漏らすだけだった。


「痛くないの?すごいね」


「遥斗」


「ん?」


「お前、それ似合うよ」


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家の洗面所の鏡に、遥斗は自分の顔を映して、まだ赤く腫れている耳を見つめた。


シルバーの小さめのピアスは、あまり目立たないけれど、遥斗の欲求を満たすには充分だ。


オシャレをしたい訳じゃない。


ただ、あの小さな痛みに耐えて手にしたその武器が誇らしく思えた。


その日、休みだった母が祖母のかわりに晩御飯の支度を終えて、台所から遥斗を呼ぶ。


けれど、きっとピアスが見つかれば叱られる。


母に叱られているのを、祖母がきっと蔑んだ目で見て笑うだろう。


「ごめん。お腹痛い…あとで」母にそう言って、遥斗は自分の部屋に戻った。


何が武器だ。


叱られることや蔑まれることを恐れているくせに。


少し、情けない気持ちもあったけれど、これは強くなる武器であると共に、大切な宝物なのだ。雄星がくれた大切な宝物を笑われたくなかった。


結局、ピアスはすぐにバレた。


心配した母が部屋を訪れて、気がついたのだ。


ひとしきり、呆れた顔をして叱られてしまった。


当然だ。


まだ、中学生だ。


しかも、今年は受験を控えている。


親として叱るのは当たり前だ。


「どうするの?これから高校の見学とかも行かなきゃいけないのに。そんなのしてたらダメよ。塞ぎなさい」


「…いいよ、別に。もう行ったし。俺、西高でいいから」


「でいいって何よ。ちゃんと考えないと」


「考えてるし、俺は行きたいから行くの」


「遥斗!」


綾子が、この家に来てから遥斗をキツく叱るのは初めてだ。


子どもの多感な時期に再婚を決め、学校を転校させ、ふたりきりの気楽な暮らしから、閉鎖的な田舎の家に知らない人間と突然住まわされることになった。その上、充の母が自分たちをよく思ってはいない。そのせいで、遥斗に嫌な思いをさせている。綾子は、充分に遥斗に対して申し訳ないと思っていた。


遥斗もそうだ。


母が自分のことで家族と板挟みになって悩んでいるのを知っていたからこそ、何もいえなかった。


綾子がキツく叱る声を聞いて、充が部屋を覗いた。


それが、さらに遥斗をイラつかせた。


母には、絶対的な味方がいる。


「…なんだよ。そんなに悪いこと?」


遥斗は立ち上がり、父と母の横をすり抜けて部屋を出た。


「どこ行くの、遥斗」


呼び止めた母のほうを振り返り、遥斗は「うるさい」と言って階段を降りる。こういう時、もどかしいと思う。

駆け下りて、走って家を飛び出せたらいいのにと思う。


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「好きにさせたらいいじゃないか。気が済んだら帰ってくるよ」


どうせ、こんな山の中で家を飛び出したとしても行くところなどない。充は綾子にそう言った。


「綾子が心配なのはわかるけど…あのくらいの年齢の男の子なら普通だよ。親に反抗するのも。これまでそういうこと無かったんだろう?余計そうだよ」


「…わかってるけど」


「申し訳ないと思ってるよ。綾子にも遥斗にも気を使わせて」


充が婚活パーティーに参加したのは、母の強い希望だ。


充自身は、仕事以外にも楽しめる趣味もあったし友人もたくさんいるし、特に人生のパートナーを必要とはしていなかった。そもそも、結婚する相手として自分の条件がすこぶる悪いのはわかっている。


山間部の小さな集落で、農業を営み、両親と同居。


女性の結婚する条件のワーストが見事に揃っている。


特に、母は昔ながらの女性でとても頭が固いと来ている。今どき、そんな母とうまくいく人がいるとは思えない。


もし、いるとしたら自分と同年代か年上だろう。


ただ、充ももう40をとうに超えてしまった。だから、それ以上の女性となると母の望む家を継ぐ子どもを作るというのは女性にとっては負担になるし、難しいかもしれない。


それでも、世間体を気にする母があまりにもうるさいので渋々友人に付き添ってもらって、まぁ楽しくその時を過ごせればいいかという気持ちで婚活パーティーに参加したのだ。


案の定、充の条件に食いついてくる女性はいなかった。


少し話して、充の身辺を知ると体良く離れていく。


友人はと言えば、彼も境遇はだいたい同じだがなにより話し上手で、例えふられ続けようと次々と声をかけて楽しんでいる様子だ。


そもそも、充は無口な方だから何人かと話した時点で疲れ果ててしまい、あとは終わりの時間までどう過ごそうか、なんなら友人を置いて帰ってやろうかとすら考えていた。


「すみません…ちょっと伺いたいんですが」


そんな時、ちいさな声で話しかけて来たのが綾子だった。


「お水って…どこかでいただけるんでしょうか」


「お水?…それなら、あの出入口のところに置いてありますよ。気分でも悪いんですか?」


「ちょっと…久しぶりにお酒を飲んだので熱くなっちゃって」


「あ、じゃあ取って来ますよ。僕も欲しいと思ってたし」


聞けば、彼女は充とは逆で友人に付き合わされて来たのだと言う。


何人かの男性と話をするものの、もう中学生の子どもがいると聞くとみんな愛想笑いとともに去って行くそうだ。


「僕もそうです。条件が悪くて…」


自虐から始まった会話は、意外にも弾んだ。


しかし、楽しくなって来た途端に時間というものは迫ってくるものだ。


いや、だからこそ良かったのかもしれない。


時間切れで、話し足りなかった。


だからこそ、勇気を出して充は綾子に連絡先を聞くことが出来たのだろう。


それをきっかけに、月に一度くらいだろうか。ふたりで会うことになった。


そして後に、充のほうから綾子に結婚を申し込んだ。


ただ、嫌ならはっきりと断ってもらっていいと前置きはした。


なにせ、条件が悪い。


充の予想通り綾子は、その申し出を一旦は断った。


なぜなら、自分はもう子供を産むつもりはない。そんな気力はない。それに、うちには息子がいるけれどあなたの家を継がせる気でいられては困る。

彼には彼の人生を歩む権利がある。私たちの結婚でそれを狂わせるわけにはいきませんと。


「もちろん。そういうのは、あくまで母の理想であって僕は望んでません。僕が綾子さんと結婚したいのは”条件”ではありません。ただ、綾子さんと一緒に生きたいと思っただけです。でも、僕も両親が心配なので…家を離れる訳にはいきません。きっと、綾子さんと遥斗くんに嫌な思いをさせることもあると思います。だから、まぁ…ダメ元です」


無口な充にしては、頑張ったと思う。


これでダメなら、もう結婚自体を諦めるつもりだった。


母が何と言おうがもうかまわない。


「…私でいいんですか」


充の実直な性格に惹かれたのだと綾子は他人に説明する時に言うが、それだけではなかったのだろうと自分でも思っている。


少し、焦りもあったのだ。


遥斗が成長し、子育てからはほぼ卒業したようなものだ。


正直、苦労はあった。


やはり、遥斗は他の子とは少し違う。周りの子が当たり前に出来ることが出来ないこともある。


運動会などは、特に苦痛だった。


みんなと同じように出来ないという劣等感からではない。出来ないのに出来るように見せかけてくれる、励ましてくれる、その周りの気遣いが苦しいのだ。


遥斗の足が不自由なのは自分のせいだ。


それは、はっきり言える。


けれど、遥斗は特別やさぐれることもなく、いじめられることもなく、やや無気力なところはあるが健康に育ってくれた。


だから、遥斗が大人になって自分に頼らずに生きていけるようになった時に、自分はひとりになってしまう。だから、まだまだ長いそこからの人生をひとりで生きていくことが怖くなることがあった。


だから、結婚相手としての条件はすこぶる悪いが、性格が実直で信頼出来るこの相手を人生のパートナーとして選ぶべきだと思ったのだ。


遥斗のことは気になったが、なんとか数年我慢してもらえば良い。


それまでは、自分と充で遥斗を必死に守っていこうと決めた。


遥斗のピアスを咎めたのも、そうだ。


そんなものが見つかれば、また義母になにを言われるかわからない。どんな嫌味を遥斗が言われるかわからない。


そういう気持ちもあって叱った。


遥斗の足のことは、充は充分に説明したはずだ。


跡取りとは考えていないことも話した。


けれど、義母にとっては「それならばなんのための結婚か」と思うのだろう。


長い年月、いや生まれた時から植え付けられているそういった凝り固まった考えをなくすことは、まず困難だ。充がいくら説き伏せようとしたところで無駄なことだろう。


それに、あまりに充が綾子たちの肩を持ちすぎても関係はこじれるばかりだ。


綾子もそれをわかっている。


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「お前、どうやって来たんだよ」


夜遅く、家を訪れる人間など珍しい。


ドアを叩く音がして、不審に思いながらも雄星は玄関ドアをそっと開けた。すると、遥斗が部屋の中に倒れ込むように勢いよく入って来て、玄関先にへたりこんだ。


「電車…」


「家から?」


「めっちゃ遠かった…疲れた」


遥斗の家から、駅までは歩いてゆうに30分はかかるだろう。遥斗の足なら尚更だ。そこから電車に乗り、雄星の家までは10分ほどだろうか。


「電話して来いよ。迎えに行くのに」


「……怒られた。ピアス」


玄関で仰向けに寝転んだままの遥斗を見下ろし、冷蔵庫のペットボトルから水を汲んで、雄星はそれを差し出して笑った。


「やっぱりな。今ならまだ治るよ?やめとくか?」


「やだよ」


「めし食った?」


「食べてない」


「食うか?バイトで貰って来たごはんあるから」


遥斗は身体を起こしてコップの水を飲み干し、小さな二人がけ用のダイニングに座った。


「なんのバイト?」


「中華料理屋。駅前の」


「料理すんの?」


「まあ、手伝い程度」


そう言って雄星は、電子レンジから鶏の唐揚げと春巻きをテーブルに出した。


「余り物もらったんだけど多かったからちょうど良かったよ、遥斗が来てくれて」


遥斗は疲れて、更に空腹だったので雄星に出されたものをしばらくは黙って食べた。


「今日、泊めてくれる?」


「いいよ。どうせもう帰る気力ないんだろ?でも、親には連絡しろよ」


「…うん」


「今、ちゃんとここで連絡しろ。しなかったら追い出す」


「わかったよ」


母に電話をかけるのは少し気まずく感じ、遥斗は父にかけた。


友達の家にいる。


今日は泊めてもらうとだけ告げると、父はただ「わかった」と答えた。これが母なら、どこの友達だとか、家族に迷惑はかからないのかとか、質問責めになるはずだ。


「電話したよ。これでいい?」


「いいよ。親父の部屋で寝ればいいよ」


「お父さんずっと入院?」


「うん。もう長いよ」


「そうなんだ…」


「退院しては無理して働いて、また悪くなって入院しての繰り返しだよ」


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今日はランチタイムまでの仕事ではあったが、夏休みのせいか忙しく、雄星は疲れ果てていた。

休憩もなく頑張ったからと言って店主にもらったおかずも、なかなか食べる気にならずにいた。


だから、遥斗が来なければそのまま晩御飯も食べずに寝ていただろう。


遥斗もずいぶん無茶をして疲れていたので、晩御飯が終わって風呂に入らせてやり、父のベッドで寝かせた。


すっかりなくなっていた気力は、遥斗のおかげで…というより遥斗の面倒を見てやることで復活した。頼りないもの、弱いものがそばにいると、それを守るために強くなれるものだ。


雄星も早々に自分のベッドに寝転んだが、遥斗が使わなかったピアッサーで開けた耳たぶの穴のひとつだけが未だに疼いて、反対側に寝返りをうつ。


眠れないのは、その痛みのせいだと言い聞かせる。


明日も忙しいだろう。


父は、必死に働きすぎた。雄星を育てるためだ。


そのせいで身体を壊した今も、少し良くなればまた働いて無理をする。


だから、少しはその助けにならなくてはいけない。


「…雄星」


物思いにふけっていると、暗闇から遥斗の声がした。


驚いて身体を起こすと、部屋の入口の襖を少し開けて遥斗が覗いていた。


「帰りたくなった?」


「子供じゃないんだから…あのさ…寝れない」


「は?知らねーよ」


「正直言うと…」


「なんだよ」


「あの布団、かび臭い」


そう言われてみればそうだ。


父の布団は、随分前に主を失ってそのままだ。特に干してやった覚えもない。


「あー悪い。ここで寝るか?」


雄星は、自分もかび臭い布団は嫌だなと思い、仕方がないのでベッドを遥斗に譲ってやることにして自分は毛布を1枚持って床に寝転んだ。


よほど、疲れていたんだろう。


遥斗は布団に潜り込むと、すぐに寝息をたてた。


雄星はそっと起き上がり、遥斗のその寝顔を覗き込んだ。


やはり、眠れないのは耳の痛みのせいではない。


遥斗がここにいるせいだ。


そっと手を伸ばし、遥斗のまだほんのり赤く腫れた耳に触れる。


やっと、また会えた。


遥斗に言ったら、怒られるかもしれない。


けれど、雄星はいつも街のどこかで、足を引きずって歩くその姿を探していた。もう一度会いたい。その想いをずっと抱いて生きてきた。


だから、父が倒れてひとりになった時も、いつか遥斗に会えることをただ夢見て、強く生きられた。


偶然、出会えただけでどんなに嬉しかったか。


それどころか、遥斗がこうして自分を頼りにしてくれる、今こうやってすぐ側で眠っている。こんな幸せなことはないと、雄星は遥斗と同じピアスのついた耳を触ってそれを噛み締めた。


けれど、こうやって親しくなればなるほど


苦しい想いは募るばかりなのだ。


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「ひとりで帰れるか?」


「うん、駅まで爺ちゃんが迎えに来てくれるから」


「そっか。家出に迎え付きかよ、甘やかされてんな。まぁ、いつでも来いよ。でもその時は連絡して」


「わかった」


雄星のバイトの時間に合わせて、雄星は原付を押して遥斗を駅まで送った。


いつもは、時間ギリギリに原付を走らせるだけだが、今日はそのおかげで余裕を持って家を出て、遥斗の速度に合わせて歩いていると、なんとなくいつもと景色が違うような気がして新鮮だ。


「じゃあね、ありがとう」


遥斗は駅前で雄星に手を振った。


昨夜、雄星が自分の寝顔を覗き込んでいたことに遥斗は気づいていた。


けれど、雄星がどんな気持ちでそうしていたのかはわからない。なんだか、嬉しそうだった気もするし、悲しそうだった気もした。


耳を触られた時は、少しだけ驚いて目を開けそうになったけれど、目を開けてはいけないと思った。なんとなく。


嫌な気持ちではない。


ただ、不思議な感覚だった。


「ごめんね、爺ちゃん」


「悪さしやがって」


迎えに来た祖父はそう言って笑った。


それから、夏休みの間は遥斗は雄星に紹介してもらい同じ中華料理屋でアルバイトをすることになった。


皿洗い程度なら遥斗にも出来るだろうと考えていたが、店の主人は今は接客が足りないと言った。躊躇する遥斗に、雄星から事情を聞いていたのか足のことは心配いらないと言った。


そんなに広い店では無いしなんとかなるだろうと、店主に穏やかな笑顔で受け入れられられたので遥斗は少し不安が拭えた。


もちろん、学校には内緒だ。


家族は、祖父にだけ伝えた。


祖父は、快く駅までの送り迎えをこっそり引き受けてくれた。


バイトは金曜日の夜と土曜日は1日、金土に雄星の家に泊まって日曜日のランチタイムのバイトに出かける雄星と駅まで帰る。


それがルーティンになった。


もちろん


遥斗の両親からすれば気が気ではないだろう。


夏休みに入った途端に息子がテンプレートでグレたのだから。


当の本人はグレたつもりはない。心配をかけるのはわかっているけれど、ただやりたいことをやることにしたまでだ。そのためには、やりたくないこともちゃんとやるつもりだ。


家に居る時は、祖父や父の仕事の手伝いを率先してやったし、勉強もした。


「今日はいるのか」という祖母の小さな嫌味も聞こえないふりをした。


時折、部屋から遥斗のことについて話す両親の声を聞くこともある。


けれど、遥斗にとっては井戸の中から見上げる空が少し広くなった気がして、息がしやすくなったような気がしていた。


中華料理屋の常連客にも顔を覚えて…いや、たぶん顔よりも足が悪いことを覚えられたのだと思うが、そのおかげで可愛がってもらえるようにもなった。


土曜日の閉店間際に必ず来る、伊藤という客は特にいつも雄星や遥斗に土産をくれたり、店が暇そうなら奢りで飲み物をくれたりした。


おじさん。


というにはまだ若く、30代半ばくらいだろう。仕事は建築現場関係だと聞いた。


飲むとよく喋るし、愛想の良い男だ。


けれど、雄星はよく遥斗に言った。


「あまり信用するなよ」


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「え、ピアス開けたの」


部活を引退して、少し髪を伸ばし始めた和真がマジマジと遥斗の耳を見つめて言った。


「うん」


「親に怒られないのか」


「怒られたに決まってるだろ」


夏休みも中頃になり、和真が一緒に宿題をしようと言うので遥斗は自分の家に呼んだ。

昼間は家族みんな外に出ているので、クーラーのよく効く居間のテーブルに宿題を広げたが、真面目に取り組むのは最初の1時間ほどで、あとはアイスを食べたりテレビを見たりするくらいだ。


「いいな、俺も高校生になったらしよう」


「和真はどこ行くの?」


「俺は西高にするよ。ダンス部入りたい。そもそもそれが目的なんだ」


「なんで?お前、野球部の坊主なのに」


「坊主は関係ないだろ。俺、前からやりたかったんだよねダンス。でもさ、うち親父が野球大好きでずっとやらされてたし、ダンス習いたいとは言えない空気でさ」


「高校でもやれって言われるだろ」


「はっきり言った。野球好きじゃねえんだって。びっくりしてたよ、俺が好きでやってると思ってたんだろうなぁ」


「…そっか。はっきり言えて偉いよ」


「だろ?だから髪も伸ばす」


「マジ?」


「なんだよ、なに笑ってんだよ」


「笑ってないよ、想像して面白かっただけ」


「笑ってんじゃんかよ。…お前は?」


「俺も行く」


「え?ほんと?」


「うん、友達いるし」


「こないだの…ダンス部の?」


「うん」


「へえ…」


「怖い人じゃないよ?大丈夫だよ?」


「ほんと?」


「うん」


「あ、そうか。ピアス。開けてもらったんだ」


「うん、そう」


「俺も仲良くなったら頼もうかな」


「いいと思うよ」


「遥斗も一緒に…」


ダンス部入ろうよ。


そう言いかけて黙りこみ、まばたきをした和真には悪気などないのは遥斗もわかっている。


遥斗はニッと笑って「バーカ」と言った。


それくらいには、遥斗は和真とうちとけられていた。


高校を決めたのも、雄星がいるからだけではなく和真がいれば心強いとも思ったからだ。